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その小柄な体のどこに入っていくのか、山盛りごはんとおかずを交互に口にしながら、一気に食べ切ってしまう。
普段の大人しいメイドの姿からは想像もつかないほどのがっつきようで、テーブルの上の皿が綺麗に空になったのとは対照的に、口の周りをベタベタに汚していた。
「ごちそう、さま、でした」
再び手を合わせ、ぺこりと頭を下げて挨拶。
あらかじめ用意していたおしぼりで口の周りの汚れを綺麗に拭き取り、今度は食器の後片付けだ。
手際よく食器を洗い、テーブルも丁寧に拭いて、ダイニングキッチンはいつものようにピカピカの状態に元通り。
だがメイドとして大変なのはここからだ。
基本的には屋敷内の掃除をするわけだが、いかんせん広い。まがりなりにも王の住む城だからだ。
朝のうちに浴室、そしてつい先ほどダイニングキッチンの清掃を終えたので、次は他の部屋やフロアの掃除である。
愛用のモップを片手に、3階から順に清掃していく。
ホウキで掃いて、モップで拭く。ひたすらにその作業を繰り返して、床の汚れを落とす。
実はハンドクリーナーもあるにはあるのだが、メイドが持つと何故かすぐに動作不良を起こすため、弟からは使用を禁止されている。だがそのハンデをものともしないほどに、メイドの手際は淀みなく、僅かな埃も逃さぬ正確さと吹き抜ける一陣の風の如しスピードを兼ね備えていた。
最初のうちは、弟に教わりながらやっていてもまったく上手くいかなかったメイドだが、一月経たないうちに今の領域まで辿り着いた。
まさに天性の学習能力の為せる技と言えるだろう。
「や、やあ、メイドちゃん」
そして最近になって、掃除中に必ずと言っていいほど出くわすのが三角巾にエプロン、そして使い捨てマスクの掃除フルアーマー装備の勇者だ。
潔癖症とあって、自ら進んで掃除をしているのだが、正直メイドは困っていた。
何故この人はメイドでもないのに、メイドである自分の仕事を取ってしまうのだろう、と。
「ちょうどこの辺の掃除が終わったところなんだけど……よ、よかったら、メイドちゃんの掃除、手伝うよ」
「いえ、だいじょうぶ、です」
お客様たる勇者に仕事をさせるわけにもいかない。
メイドは丁重にお断りし、すぐさま別の場所の掃除をするべくその場を移動したのだった。
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