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お風呂のあとは夕食。食事風景は朝食と同様、他の四名が食べ終わってから、自分の分+残飯をドカ食いしてお腹を満たす。
そしてようやく1日の仕事から解放されて、自由な時間となるのだ。
尤も、それは屋敷の使用人としての話。
メイド本人には、これからもやるべきことがある。
「クロードさま、はいって、いい、ですか」
水色に花柄のパジャマを着たメイドは、手提げ袋を持って弟の部屋の前に来ていた。
コンコンと軽く二回ノックし、声を掛けると、すぐに返事が返ってくる。
「おう、来たか。入れ」
「しつれい、します」
許可を得て、礼儀よく入室。
弟の部屋は小綺麗に片付けられており、シンプルな印象だ。よくわからない雑貨や観葉植物は、おそらく彼の趣味と思われる。
そして椅子に座っていた弟だが、立ち上がりメイドを出迎えると、その席をメイドに譲り座らせる。
そのメイドは、持ってきた手提げ袋の中身を取り出して、机の上に広げた。
「えーと……確か昨日はここまでやったから……こっからだな」
メイドの持ち物は、筆箱など筆記用具とA4サイズのノート、そして小学校低学年向けの教科書だった。
初めて会った頃のメイドは、言葉こそ理解できてはいたものの、一切文字の読み書きはできなかった。
最初の1ヶ月ほどは困ることもなかったが、後々のことを考えたら文字を読めるようにしておいた方がいい、と判断し、弟はメイドに教育を施すことにしたのだ。
「んじゃこのページの単語、10回ずつ声に出しながら書き取りな。いつも通り、焦らなくていいから丁寧に書け」
「はい、わかり、ました」
弟の指示を受け、さらさらとペンを走らせるメイド。
ノートには、まるでお手本をそのまま貼り付けたかのような綺麗な文字が小気味よいリズムで刻まれていく。
仕事だけでなく、勉学でもメイドの学習能力の高さは遺憾なく発揮される。次々と単語を吸収し、基礎的な文法もほぼマスターしていたのだ。
弟がそろそろ算数を教えてもいい頃合いかもしれないな、などと考えている間にも、メイドは既に指示されたページの書き取りを終わらせていた。
「クロードさま、おわり、ました」
「……よし、全部オッケー。えらいぞ」
弟はメイドからノートを受け取り、ミスがないかをチェック。
文句のつけようもない出来に、頭を撫でて褒めてやると、メイドは気持ちよさそうに目を細めた。
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