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「……よし、今日はここまで。メイド、おつかれ」
「クロードさま、ありがとう、ござい、ました」
約1時間ほどで、メイドの勉強タイムは終了する。
このあと、弟は一番最後の風呂に入るため、着替えを用意して部屋を出る。
メイドも弟の後に続いた。
「クロードさま、きょうの、ぶんは」
「ああ、安心しろ。ちゃんと作ってあっからよ。冷蔵庫のいつもの場所だ。でも例によって食っていいのは一つだけだぞ」
階段を下りつつ、二人はそんな会話を交わす。
そして一階に到着すると、弟は浴室へ、メイドはダイニングキッチンへそれぞれ向かう。
冷蔵庫の前に辿り着くと、その扉を開け放った。視線の先は、大きい扉内の上から二番目のスペース。
「…………?」
だが、目当てのものは、いつもならあるはずの場所になかったのだ。。
これにはメイドも大変ショックを受けたようで、取り乱しつつも冷蔵庫の中をくまなく探しまくった。
「うぅ……プリン、ない……」
しかしプリンはどこにも見当たらず……メイドの目はどんどん潤んでいった。何を隠そう、メイドは弟の作るプリンが大好物なのだ。
はじめてこの屋敷に足を踏み入れたとき、弟の料理を食べてその味に衝撃を受けた。メイドはそれまで、こんなにも美味しいものを食べたことがなかったからだ。
その中でも、とりわけデザートとして出されたプリンはメイドの中で決して忘れられない味となった。果物の甘さではなく、砂糖の甘さ……それをはじめて味わったのが、この弟特製プリンだったのだ。
以降、弟の出す料理とプリンの虜になったメイドは、弟に報償は何を望むのか、と問われた際に「クロードさま、の、ごはん、と、……あまいの、また、たべたい、です」と答えた。
こうしてメイドへの給料は三度の飯と仕事終わりのプリンに決定されたのである。
1日を締めくくるプリンが無いということについて、メイドの喪失感は尋常ならざるものであった。
しばらく呆然としていたメイドだが、やがて嗚咽が漏れ始め、すーっと一粒の雫が頬を伝う。
何かがこわくて涙を流すことはあった。でも今はなにもこわくない。なのに何故、自分の目からは涙が溢れてしまうのか。
その原因がメイドにはさっぱりわからず、冷蔵庫の扉を開けたまま、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
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