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「……あれ、小娘? なにしてんのよ、そんなとこで」
どれほどの時間が経ったかは定かではないが、立ち尽くし啜り泣くメイドの背に声を掛けた人物がいた。
振り返ると、そこには薄黄色いパジャマに身を包む女神の姿が。
「め、めがみさま……」
「って泣いてる!? わ、私はなにも悪くないわよ!?」
何も追及していないのに、勝手に慌てて否認する女神。
「なにがあったか知らないけど、ちょっと退いてくれる? 冷蔵庫にすごい美味しいプリンが入ってたから、まだ残ってたら寝る前にもう一回食べておきたくて」
否認していた割には、今度はあっさりと自白した。いや、本人的にはその自覚は一切ないのだが。
「……プリン……」
「え、あれ? ちょっと、なんかさっきより泣いてない? あの、泣かれてもすごい困るんだけど」
誰がどう見ても、居候のクセに勝手に冷蔵庫を開けて勝手に中に入っていたプリンを食べた女神が悪いのだが、メイドは女神を責めようとはしなかった。
むしろメイドにとって、これは天災に近い。世間を知らな過ぎる少女には、泣き寝入りするほかなかったのだ。
そして、女神はメイドの泣く理由を一切察しない。
「ええー……って冷蔵庫の中ももうプリンないし。まあないもんは仕方ないわね。プリンはまた今度にするとして、なにか他のものはないのかしら」
自分を省みないとはまさにこのことか。プリンがなければなにか他のもので代替すればいいじゃないの精神で、冷蔵庫漁りを止めない。
そして、冷蔵庫の一番上の段の最奥に眠るそれに、女神は手をかけた。
「あっ、オレンジゼリー見っけ! ま、今回はこれで妥協しといてあげるわ!」
みかん系の果物が好きな女神のテンションは上昇、早速キッチンの収納からスプーンを取り出す。
「じゃ早速……うん、みかんの味はする……けど、なんかヘンね……? そんなに美味しくないような……」
疑問を覚えつつも、みかんの風味は感じるため食べ進める女神。
異変は、ゼリーが容器の半分になった辺りで起きた。
「……ッ!? お、お腹痛っ……!?」
強烈な腹痛を感じた女神は、一目散にトイレへダッシュ。
取り残されたメイドは、もはや涙も引っ込みぽかんとしていたが、やがて普通に歯磨きをしたのち、普通に眠りについた。今日食べられなかった分のプリンは、後日きちんと支給されたそうだ。
あと、女神は勝手に冷蔵庫のものを食べるのをやめたらしい。
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