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…………
朝食から、約一時間後。
「海よーーーーーっ!!」
一行は、某国の有名なビーチへとやってきていた。
多くの海水浴客で賑わうこの場所は、前評判通り青い海は透き通り、白い砂は輝いて、直上の太陽はギラギラ眩しい。
そんな念願の海を目の前にして、女神はその叫ぶ声を我慢することができなかったのだ。
「いやー、海に来たら一度は叫んでみたかったのよね!」
パレオの白い水着を身に纏い、ピンクのリボンの付いた麦わら帽子を被った女神は、太陽にも負けぬ明るい笑顔が自然と溢れる。
その後ろには、いつものメイド服ではなく、淡黄色のセパレート水着を着用したメイドが大きなパラソルを持ち、その下で待機する勇者、魔王、弟。
「……なんでこんな所に」
キャップとサングラスで顔を隠し、上にはシャツを羽織る勇者は、未だ納得いかずに呆然と呟いた。
結局、海派山派の対立は決着つかず。折衷案として弟が提案したのが「とりあえず両方行ってみる」であった。
弟としても、たまには外へ出て気分転換するのも丁度いいと思っていたし、無理矢理にでも引きこもりの姉を引きずり出す口実に使えると思ったからだ。
その案を女神と勇者はしぶしぶ受け入れ、最初は海のターン、というわけである。
「クッソ……見渡す限り穢れ共がウジャウジャと……アアアア! 寒気がする! もう本当無理! 帰らせてくれぇぇぇぇッ!」
勇者にとって堪え兼ねる光景なのか、頭を抱えてその場に蹲ってしまった。
「いや、クソ暑ィだろこれ……マジだりぃ。なんでエアコンねぇトコにわざわざ来なきゃいけねーんだ」
早くもこの海の気温にやられた魔王は、弟に寄りかかっていなければ直立できないほどに、体力をゴッソリ奪われていた。
その格好は紅白の横縞模様の、手と足以外をぴっちりと覆うスーツタイプの水着だ。海に強制連行された際、嫌々ながら着させられたものであるが……モノ自体は、魔王の自前である。
「姉ちゃん、その格好はどうにかなんなかったのか……?」
「うるせぇ……これ以上露出を増やしたら死ぬぞ、私は。日射病で」
「普段引きこもってるからそんな貧弱になるんだ」
まるで囚人のような格好の魔王に、弟はドン引き。
その魔王はと言えば、弱々しく恨みがましい目で睨みつけた。
あまりに情けない姉の言葉とその姿に、弟は無意識に大きな溜息を吐いたのだった。
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