LV12 砂浜には獣が現れる

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魔王のバテ方が明らかにハイペースとは言え、暑さで参っているのはそれを支える弟も同じだった。 それに、せっかく海に来ているのだから、海に入らなければもったいない。 「ちょっと姉ちゃん海に浸けてくるわ。濡れて冷やされれば少しはマシになるかしれねーしな。そういうわけでメイド、悪ぃがこの発狂男を頼む」 「はい、わかり、ました」 パラソルの影で蹲る勇者をメイドに任せ、弟は魔王を担いで海に向かった。 そう言えば、自分たちより先に女神が海に飛び出して行ったがどこにいるのだろうか。 砂浜で迷子になるとは考えられないが、人も多いし、なによりあの女神のことである。弟は全く女神を信用していなかった。 「あれ……もしかして」 そこで、弟は女神らしき後ろ姿を発見する。 海に入る前に、まずそこへ寄って様子を見ようと近付くと、案の定女神で間違いなかった。 「……何してんだ、お前」 「あら愚民、見てわからない? だからあんたは愚民なのよ」 しゃがみ込んだ女神の前にあるのは、どう見てもただの砂山だった。 これを見てわかれと言う方が無理難題である。 「山……にしか見えないが」 「そう、その通り! これは山よ!」 結局ただの山で合ってるのかよ、と心の中でツッコむ弟。 やけに自信満々に答える女神だが、どこからそんなものが溢れてくるのかはさっぱりわからない。 「そんなの作って楽しいのか?」 「作っては崩しを繰り返しているけど、これが案外楽しいのよ。ストレス発散になるし!」 「最近なんか辛いことでもあったのか?」 そう言うと、女神はきらきらと輝くような笑顔で、砂山を蹴り崩し始めた。 それを目の当たりにした弟は、本気で女神のことが心配になってくる。見ていて辛くすらある。 「本当はお城を作ってみたかったけど、作り方が全然わかんなくてね。ちょっと悔しかったけど、この遊びに辿り着いてからはそんなの気にならなくなったわ!」 表情は満面の笑みなのに、これほどまでに痛々しく見える者がこの世に存在するなんて想像もしなかった。 弟の女神を見る目が、哀れみ一色に染まっていく。 「……泳がなくていいのか? せっかく念願の海に来たのに」 「そうそう、それなんだけど、私泳げないのよね。どっかで浮き輪貰ってきてくれない?」 弟はその会話の末に思った。 一体こいつは、どれほどの哀しみを背負った存在なんだ、と。
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