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…………
魔王が足を攣って沈んでいた頃、女神は一人ぷかぷかと海に浮いていた。
何をするでもなく、ただ波に揺られて漂うだけだが、それでも女神は満足感たっぷりの様子。
「やっぱ海に浮くのって超楽しいわね!」
心なしか、女神の周囲の人口密度はかなり薄いような気がするが、そんな些細なことはお構いなしだ。
そうして女神なりに目一杯海を満喫していたのだが、ある異変に気が付いた。
一部の海水浴客が浜へ急いで戻っていくのが見えたのだ。
その正体は、迫り来る大きな波……女神が振り返った時には、もうすぐ目の前。サーファーでもない女神にとって、この高波はノーサンキューである。
「えっ、ちょっ、ちょっと待って! こんなの聞いてない! 無理無理無理……きゃあーッ!? たーすーけーてー!」
叫びながら、女神はビッグウェーブと一体化した。飲まれただけだが。
必死で浮き輪を掴んでいたおかげか、どうにか溺れることなくそのまま浜辺まで流されてしまった。
「うぅ……怖かった……なによあの波! この私を溺れさせるつもり!? もしそうなったら文字通りミッドガルド全体の損失よ!? 私女神だし!」
高波に文句を垂れるも、相手は自然。もちろんその行為に意味はない。いや、女神のストレスは多少解消されるが。
ひとしきり文句を叫び終え、それでもまだ僅かに怒りが残っている女神に、後ろから声が掛けられた。
「やあ君、可愛いね。もしかして一人? よかったら俺らと遊ばない?」
その声の正体は、爽やかな風貌のイケメン男子であった。しかも声を発した者以外に二人も居る。
「これってもしかしてナンパ!? あ、あんたたちいい目の付け所してるじゃない! まあ私が可愛いのは当然よね! す、少しなら遊んであげなくもないわよ?」
最早波に飲まれたことなど、女神の頭の中からはすっぽり抜け落ちている。
イケメンが三人もいること、可愛いと褒められたこと、初めてナンパされたことなど嬉しい要素が重なり過ぎた。女神はあたふたしつつも、喜んでその誘いに乗ることに。
「お、流石ノリいいね! じゃ、ちょっと移動しようか。俺ら、あんまり人が来ないいい場所知ってんだ」
「そんなにいい場所なの? だったら私を連れて行くのを許可するわ! ああ、やっぱり海って楽しいところなのね!」
そして、女神はイケメン三人組に言われるがまま、人気のない場所へとウキウキでついて行ってしまった。
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