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女神と三人組以外、誰もいないはずの岩場に響き渡る怒号。
全員がビクッと全身の筋肉を強張らせ、女神の体を楽しむその腕は反射的に引っ込んだ。
そうして声のする方へ向くと、姿を見せたのは二人の女性だった。
栗色のショートヘアでセパレート水着の少女と、その前を往く憤怒の形相に染まった、赤いボサボサの長い髪と囚人服のようなスイムウェアを着た女。
即ち、魔王とそれに付き従うメイドである。
「くっ、クズ!? それに……小娘まで」
「オイオイオイオイ、ゴミのくせに私を差し置いて楽しそうなことやってんじゃねぇかよォ! しかもそんなハンサム顔三人も連れてやがるときた」
呆気にとられる四人をよそに、ぐんぐんとその距離を縮めていく魔王。
そして、三人組の目の前まで来ると、まるで品定めするかのように顔を近づけ、鋭い目で舐めるように観察し始める。
「……まァ及第点ってトコだな。だが顔は良くても目は悪ぃらしい。こんなゴミのどこがいいんだか……あ、さてはてめぇら揃いも揃ってG専だな? G専……即ちゴミ専。海岸のゴミ拾いに勤しむたァ殊勝な心掛けだよ」
突然現れて好き勝手言いまくる目付きの悪い女の登場に、三人組は困惑するばかりで体を動かすことすら忘れてしまっていた。
もちろん、こんなものでは魔王の怒りは収まらない。
「だが、よりにもよって私の目の前で倉庫の奥の奥に溜まったゴミに声掛けてやがったことが気に食わねー。……要するに私が何を言いてぇかってーとだな」
捲し立てるような早口で言い、一度そこで台詞を区切ると、すぅーと大きく息を吸った。
そして、カッと目を見開いて、今日最大の怒りをこの瞬間に超新星爆発の如く解き放つ。
「わざわざこの私が海まで来てやってんだからゴミ拾いなんざしてねぇで先ず私をナンパしろやこのなんちゃって爽やかトリオがァァァァァッ!!」
まるで空気さえ震えるような迫力が、確かにあった。
その剣幕は、海風すら止んだように思えたほど。
「ひ、ひぃぃ!? この女マジでやべぇぞ!?」
「絶対関わったらいけねぇ奴だよこれ! 逃げろ! とにかく全力で逃げろ!」
「ごめんなさいもう二度とこの海には近付きません!!」
魔王の鬼気に当てられて、完全に萎縮してしまった三人組は、振り返ることもせずバタバタと逃げ帰って行く。
人気のない岩場に、荒々しい魔王の吐息だけが聞こえる静寂が訪れたのだった。
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