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蒼天に白い雲が流れ、すぅーっと風が木々の隙間を吹き抜けるこれ以上ない夏日和。
本日の魔王城一行はというと、深緑生い茂るとある山のキャンプ場を訪れていた。
「山だァーーーーーッ!!」
その大自然に魅せられて、堪えきれず大声で叫んだのは、容姿端麗金髪の勇者。
動きやすいアウトドアファッションに身を包む彼の表情は、おそらくここ数週間で最も輝きを放っていた。
「ふふ、思わず叫んでしまった。だが山に来て叫ばぬのはマルゲリータピッツァに粉チーズを振らないで食すことと同義! この空、この緑、この空気、雄大なる大自然に囲まれて叫ばないなんて選択肢は僕の中にはない!」
「誰だよお前……海の時とテンション違い過ぎんだろ」
舞い上がった勇者を見て、弟は呆れ気味……というか軽く引いており、気付かれないように静かにスッと距離を取った。
だが今の勇者に距離感など関係ない。その上がりきったテンションは天井を知らない。
「そりゃ山だし、解放的にもなるさ。何故ってここは山だからね。そう、山といえば大自然……自然ということはそれ即ち、不必要に人間が介在していないということだ! つまり山というのは穢れのない清浄な空間! 僕にとってこれ以上心安らぐ場所はない!」
両腕を大きく広げ、まさに身も心も軽やかになったことをアピールする勇者の演説。
心なしか、彼の周りがキラキラしているようにも見える。そう錯覚を起こすほどの上機嫌であることは、疑う余地もない。
だがそんな勇者の盛り上がりようについて行ける者は、少なくともこの場には誰一人としていなかった。
「山なんて何が楽しいのよぉ……虫いるし汚れるし虫いるし……あと虫もたくさんいるし、いいトコなしじゃない」
特に顕著なのが、ロング紫髪のぱっつん前髪、水色の膝上スカートをコーデに組み込んだ女神であった。
まだ来たばかりなのに、露骨に嫌な顔をして帰りたがっているのは、誰の目から見ても明らかである。
「はっ、貴様のような肥溜女神より虫の方が清らかな生命体であることは明確! なんだったら今すぐ山から立ち退いてくれたって僕は構わないが」
「はぁ!? この女神が虫以下ですって!? 訂正しなさい、そんで土下座! まあやったところで絶対に許さないけど!」
山派の勇者は、海派の女神をここぞとばかりに挑発。
もちろん女神はそれに乗り、案の定ここでも口喧嘩のゴングが鳴り渡ったのであった。
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