LV14 ツギハギの隠れ蓑

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姉である魔王の部屋から不意に発見した、それを手に取り思わず固まってしまう弟。 ドラマCDというものの存在自体は一応知っていた……しかし、その実物を見たのは初めてであり、当然聴いたこともない。 ライみるの世界にハマりつつある彼にとって、とても気になる一品であることは疑いようもなかった。 「これは……そうか、アニメ化決定記念の時の、6巻の初回限定版特典だったんだな……つまり、みるくたちに初めて声が当てられた作品……!」 その梱包箱などから、弟はじっくりと情報を読み取る。 そして、知れば知るほどこのCDを再生したくなってくるのが、知性ある者の欲望というやつだ。 「つーか、姉ちゃんがこれを持ってるのは意外だな……男同士が絡んでる気持ち悪ィやつばっか見てるから、そういうのにしか興味ねぇのかと」 弟がそう思うのも無理はない話だが、実は魔王はアニメなどにも一通り手を出している。所謂腐女子と呼ばれる彼女らに見境はない。 なおこの限定版は、魔王がミッドガルドに潜伏する部下に命じて、ネットオークションで落札させたものである。それを通じて、その部下は見事にアニメにハマったとか。 「くっ……聴きてぇ……! だが勝手に持ち出したのがバレたらあのクズニートになんて煽られるか……! いや、でもこれだけ部屋が散らかってたら気付かないか……? こっそり持ってって、できるだけ早いうちにまたこっそり返却すれば或いは……いやしかしッ……!」 口元に手を当てて、ブツブツ独り言を呟きながら、弟はその場で葛藤を始めた。 リスクとリターン、罪悪感と良心の戦いである。 が、それ故に弟は気付かなかったのだ。 魔王の部屋の扉が開かれたのを。 「おいおいおいおい、てめぇ人の部屋でなァにしてやがんだァ? あぁん!?」 「ッ!? ね、姉ちゃ……!?」 その声が聞こえた瞬間、弟は咄嗟に振り返る。そして動きも、思考も、完全にフリーズした。 彼の視界が捉えたものは、バスタオルを巻かれた魔王が、メイドに抱えられている様子だったのだ。 「突然シャワーさせられたと思ったら、てめぇは乙女の部屋ァ物色か? 犯罪者の弟とかマジありえねーわー引くわーマジで。オラ取り敢えず跪いとけやこのクソ童貞野郎が」 「あ、ああ……!? 違う……これは違うんだ……!」 物凄い悪い笑顔で攻め立てる魔王に、弟は悪夢を見る。 もう終わりだ……と、絶望の淵に叩き落されたのだ。
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