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クズに弱味を握られた。
その事実が指し示す先は、闇より黒い最悪の結末。
魔王の笑みは、あまりにも低俗で下卑た禍々しいものに感じ……弟の目からは光が失われていく。
「で、てめぇは人の部屋から何盗ろうとしてたんだァ?」
そう言いつつ、魔王は弟の手元に視線を向ける。
弟はそれを隠すこともできず、まるで時ごと凍結してしまったようだった。
「ライみるのドラマCD……か。へぇ、お前もこういうのに興味あったんだな弟ォ。私ゃ嬉しいぜ、弟が新たな文化に触れてくれて」
魔王のそれは、本心が全く見えない語り口調。
ただ一つ確かなのは、魔王はこの状況を最大限楽しんでいるということだ。
「だけど盗みは感心しねぇなァオイ! お前日頃から私にとやかく言ってるけどなぁ、犯罪者にそんなこと言われたかねぇんだけど!? なになに、これどう説明すんの!? えぇ!? 言ってみろやァァァァ!」
ここぞとばかりに強気に出る。
完全に言い逃れのできない状況、弟は黙って聞くことしか許されない。
「クロードさま、わるい、こと、した、ですか」
この状況を疑問に思ったのか、メイドが魔王にそう尋ねた。
メイドに抱えられたまま、その質問に魔王は答える。
「ああそうだ。人のモン勝手に盗ったら泥棒だろ? お前だって自分のモン盗まれたら嫌だろ。そういうこった」
「……はい、ひとの、もの、とるの、いけない、ことです。とても、いやな、きもちに、なります」
魔王の言葉を受けて、メイドは少しの間を空けて、とても悲しげな表情を浮かべた。
その間に何を想起したか、それはメイドのみが知るところである。
それよりも弟にとってはますます状況が悪化してしまった。メイドすら取り込まれ、最早味方もいない。魔王に屈する道以外、全て閉ざされてしまったのだ。
……しかし、絶望の淵に立たされたことで、彼の意地は再び熱を取り戻す。
そうだ、この絶望、最悪、詰んだとも思えるこの状況からでも、屈してはいけない。クズニートになど、屈していいはずがないのだ。
「ふ、ふふふ……何を勘違いしているんだ、姉ちゃん」
「あ?」
「俺は部屋の掃除をしていただけに過ぎねぇ。早とちりは止してくれねぇか?」
弟が取った行為。それは完全なる開き直りだった。
笑い声を漏らしながらゆらりと立ち上がった弟は、一転して力強く言い放ち、口角を吊り上げたのだ。
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