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この開き直りは、英断とも呼べる逆転の一手。
一気に形勢がひっくり返ったのだ。
「俺は姉ちゃんの着替えを届けるついでに掃除をしてやっていただけ……このCDを盗もうとしてたって証拠はあるのか?」
「そ、そいつを手に持ってる時点で怪しいじゃねーか! 大体、人の部屋勝手に掃除するってのも……!」
「そうか? 姉ちゃんよく俺に部屋の掃除させるじゃねーか。まあ俺が自主的にやってることだが……今までそれに文句つけたことがあったか? いや、なかったね! 見ろ、ニヴルヘイムから持ってきた姉ちゃんの積みゲーを全部段ボールに入れて片したのも俺だ! 掃除に関しては今更文句言わせねーからな?」
「ぐッ……!」
魔王にしても、掃除と称されては何も言い返すことができなかった。確かに、CDを手にしていただけでは、片付ける最中とも考えられる。
悔しさと怒りを噛み締めて、ギロリと睨みつけることが精一杯の抵抗だった。
「というわけで、俺は引き続きこの部屋を掃除させて貰うぞ! あと姉ちゃんは湯冷めする前にさっさと服を着やがれ! 安心しやがれてめーの裸なんてこれっぽっちも興味ねぇからよォォォォ!!」
「お……弟ォォォォォッ! てめぇぇぇぇッ!!」
最早、勝敗は完全に決した。
部屋に響く弟の勝利の高笑い、そして悔しさと怒りの爆発した魔王の叫び。
弟はそんな憤怒の篭った魔王の声が、まるで自身を祝うようにすら聴こえ、嬉々として部屋の片付けを開始した。
CDの件は今回は潔く諦める。だがいつか、どうにかして自身の株を落とさずにこの中身を試聴しよう……その野望を胸に宿しながら。
その弟の背後で、魔王はメイドに着替えさせてもらいながら、部屋が片付いていくのを見守るしかない。まさに無力、敗北の時間をまざまざと味合わせられる屈辱的な時間だった。
しかしその時。
「いッ……だぁぁぁぁッ!?」
喜びのあまり、足元の注意が散漫になった弟は、段ボールの角に右足の小指をぶつけて悶絶する。
そして更に運が悪いことに、その衝撃で積み上げられた段ボールが崩れ、弟に追い打ちをかけた。
「あああああッ!?」
「ク……クロードさまーーーーーっ!!」
弟の断末魔は、すぐに積みゲーの山に埋もれた。
その後、気絶した弟は積みゲーの山からメイドに救助されることになるのだが、魔王の部屋は以前よりも更に散らかる結果となったのだった。
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