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弟が慣れない環境で待たされて、約5分が過ぎようとしていた。
おとなしく過ごせるという意味では、この短い時間も休息であることには違いないのだが、部屋から香る甘ったるさに弟はそれどころではない。
息を深く吸おうものなら容赦なく脳髄に甘さが沁みてくるのだ。結局、どうもそわそわして心は落ち着かない。
「愚民、待たせたわね! 連れてきたわ!」
早くしてくれ、と何度念じたかわからないが、ようやく待望の女神が扉を開けてやってきた。
その後ろには、室内にも関わらず帽子とゴーグルとマスクを着用した勇者、爆睡する魔王を抱えるメイドの姿もある。
「ツッコミどころ満載すぎるだろ!」
女神を先頭に、ぞろぞろと部屋に入ってくる面子に、弟は呆れ顔を隠しきれない。
「まず一人寝てるヤツいるんだけど!? 今からゲームしようって話じゃなかったか?」
「今から起こせば問題ないわよ。私は言われた通り連れてきただけだからね!」
一つ一つ気になる点を潰していくことにした弟。
その質問に、女神はドヤ顔で答えたのだった。それでいいのかと疑問を残しつつ、異様な格好をした奴へと矛先を変える。
「で、お前の格好はなんなんだそれ!? 花粉症対策万全です的な装備じゃねーか!」
「馬鹿野郎! この装備でもまだヌルいくらいだ! 何せ穢れの本拠地へ乗り込もうというんだぞ!?」
よく見たら透明で薄手なビニール手袋もしている勇者は、どう見ても女子の部屋に遊びに来る格好ではなかった。
それを指摘すると、勇者は声を荒げて主張を語る。よく見たら肩が少し震えていた。そんなにも嫌なのだろうか。
「だったら断りゃいいじゃねーか……」
「ぐっ……本来なら僕もそうしたいところだが……その、今回はメイドちゃんが……そ、そうだ、メイドちゃんを穢れ共に晒し続けるわけにはいかないから監視も兼ねてだな……!」
その反応で、弟は全てを察した。
勇者はメイドの名を出した途端、明らかに歯切れが悪くなった。メイドへとチラチラ視線を向ける。肝心の本人は座ってじーっと前を見ているだけだったが。
「とにかく人数は五人もいれば文句ないわよね? さ、早く始めましょ!」
もうわくわくが堪え切れない女神が、その一言で場を仕切り、そして纏める。
面子とゲームに不安しかない弟であったが、ここまで来たら最早引くこともできず……「壮絶人生ゲーム」を箱から取り出し、ゲームの用意を進めるのだった。
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