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ボードやらその他の付属品やらを出し、いつでもゲームを始める用意は整った。
あと一つ問題があるとすれば……と、弟は未だ床で熟睡する魔王へ目を向ける。
「一番の難関が残ってんぞ。寝起きの悪ぃクズニートが素直に応じるとは思えねぇんだが……」
「だーいじょうぶよ。女神に任せなさい」
自信たっぷりの女神には不安しか湧かなかったが、言い出したのは本人なために任せることにした。もし何かあっても自分は無関係を貫くためにも。
そして女神は眠る魔王に馬乗りになって……軽く頬をペシペシ叩きつつ呼び掛ける。
「いつまで寝てんのよ、このクズ! 起きなさい!」
女神の一挙手一投足に弟はヒヤヒヤものだ。
まず間違いなく魔王は不機嫌になる、と踏んでいるからである。
「んぁ……?」
そして魔王は薄目を開いた。どうやら半覚醒らしく、幸いなことに自分が何をされて起こされたのかは理解に追いついていない。
「よく聞きなさい、クズ。あんたは今から私たちとゲームをするのよ。とっても楽しいゲームよ。あんたはそのゲームをやりたくて仕方がないのよ。何故なら、とってもとっても楽しいゲームだからよ」
半覚醒の魔王の顔を両手で持って、至近距離まで近付いてぼそぼそと語りかける。
目と目をしっかり合わせ、ゆっくりと語られるそれは、徐々に魔王の意識に刷り込まれていく。
「催眠術ってお前……そんなもん効くわけが」
「ゲーム……楽シイ……ゲーム……ヤリタイ」
「姉ちゃん!!?!?!?」
呆れた弟が二度見してびっくりするほど、魔王はものの見事に催眠術にかかっていた。魔王の目はどこか虚ろで、カタコトの独り言をブツブツ垂れ流している。
「ふぅ……うまくいったようね」
「ええ……? お前、催眠術なんて出来たのかよ……?」
「なんか適当にやったら出来たわ!」
「マジかよオイ!?」
とてもやり切った表情の女神に、弟は軽く戦慄さえ覚えた。
そして女神の言に偽りはなく、どこかで習ったとか練習したとかは一切なし、即興適当催眠術である。
それに掛かる魔王が特別暗示や催眠にかかりやすい体質だったというだけだが、彼らにそれを確かめる術はない。
「人生……壮絶……早ク、ヤリタイ」
「ほら、クズもこう言ってることだし、早速ゲームスタートよ!」
「おいこれ本当に大丈夫なんだろうな!? マジで怖ぇよ今の姉ちゃん!」
なにはともあれ、役者と舞台は整ったのである。
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