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「おい弟。イベントに行くぞ。少し付き合えや」
「……は?」
朝食を済ませ、テーブルを拭いていた弟に対し、魔王は高圧的な命令口調で話し掛けた。
その格好もいつものジャージではなく、外出用のパーカーとジーンズである。
突拍子もないお誘いに、弟は視線と思考と動きが停止した。
「一体どうしちまったんだ姉ちゃん……最近アクティブ過ぎやしねぇか? 頭打ったか?」
「ああん!? 私が外出ちゃ悪ぃのかよ!? ってかその顔やめろやムカつく!」
まるで見てはいけないものを見てしまったかのような弟の表情は、魔王の神経を逆撫でるのには充分過ぎた。
「確かに、海や山は無理矢理連れ出してたけど……まあ、大体予想はつくがな。また前みたくアニメとかゲーム関連か?」
今まで外に出る頻度が高まっていたのは、女神や勇者による提案で遊びに連れ出したからに他ならない。
だが、弟にも心当たりがないわけではない。以前、魔王から外に行きたいと申し出があったからだ。
「近ぇと言えば近ぇが、全く違ぇ。BL同人誌のイベントだ」
その予想は遠からず近からず。魔王はさらりとその内容を告げるが、それを聞いた弟の心境は暗雲に飲み込まれた。
「BL……って、あの男同士が絡む気待ち悪ぃやつか!? そんなのに俺を巻き込むんじゃねぇ! 金ならくれてやるから一人で行ってこいクズニートが!」
「はぁぁぁ!? 魔王が来いっつってんだからてめぇも来るんだよ童貞野郎! 私を前みてぇな人混みに独りにするんじゃねぇ! 今度こそ死ぬぞ!?」
内容から全てを察し、それに嫌悪感を示す弟は断固拒否。
だが魔王としても弟を連れて行かないわけにはいかなかった。死活問題だからである。
「とにかくゴタゴタ吐かさずに私の荷物持ってついてくりゃいいんだよ! 30分後に玄関口集合! 遅れたら殺す!」
「あっ、てめぇ! ……クッソ、勝手に色々決めて行きやがって……!」
普段はやる気も気力もまるでない魔王だが、こうと決めたら非常に頑固である。
おまけに手段も選ばないために、何をされるかわかったものではない。
弟は深い溜め息を吐き、今日のこれからを憂いながらやけくそで机をピカピカに磨き上げたのだった。
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