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並び始めてから約30分が過ぎようとしていた。
じわじわと列が動いてはいるのだが、それでも先頭に辿り着ける気がしない。
幸いなのは、比較的涼しい気温だということか。だがそれでも、この人口密度の所為か暑苦しく感じられ、確実に体力と気力を削っていく。
「こんなに並ぶなんて……聞いてねぇぞ、オイ……! ちくしょう、なんだって俺がこんな……!」
やつれた顔で、ぶつぶつと恨みつらみを垂れ流す弟。それくらい許されないとやっていられなかった。
それと同時に、魔王がやけに大人しいことに気付く。
「……あれ、姉ちゃん?」
「もう、私は駄目だ……弟ぉ……舐めてた、イベント舐めてた……たすけて」
そう、まともな弟でさえ消耗が激しいのだから、クズ体力の魔王が無事なはずがなかったのだ。
完全にしゃがみ込み、頭も上げないままに、助けを求めようと弟のズボンの裾だけはぎゅっと握っている。
「おいコラ、こんなとこで座り込むな! 後ろに迷惑が掛かる!」
「いやマジでもう無理……立てねぇって……クッソなんなんだよこいつら、なんでこんなに長時間立ってられるんだよみんな私と同じじゃなかったのかよ……」
ぐいっと手を引き、魔王を無理矢理立たせて、肩を組む。
その間魔王はずっと泣き言を言っていた。魔王のメンタルがここまでやられるのも珍しい。
「あー……クソが。やっぱ人間多過ぎだわ……滅びろマジで」
「最初の威勢はどうした。情けねぇ、ちゃんと歩け」
やがてその泣き言は恨み言へ変わる。逆恨みもいいところだが。
「弟ォ! 私はもう疲れたから帰る! お前適当にいろいろ買ってこい!」
「はぁ!? ふざけんなこのクズニート! それじゃまるで俺がホモ本好きなやつみてぇになるじゃねーか! そうはさせねぇからな、欲しいなら自分で金出して買え!」
「うるせぇ! これ以上疲れたら私は死ぬ! 足とかが爆発して死ぬ! でもBL本は欲しいんだよ! つまりお前が代わりに買ってくれば全部丸く収まるじゃねーか!!」
「そんなん俺が納得するかバカ! 絶対ぇ帰さねぇからな! こうなったら意地でも帰さねぇ、少なくともこの列の商品てめーが買うまでは絶対帰さねぇ!!」
駄々をこねる魔王のクズ理論に真っ向から反対する弟。
もちろん喧嘩になるのは火を見るよりも明らかで、その大音量は周囲の視線を集めることになったのだが、二人はそんなことに一切気がついていなかった。
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