LV17 ラブストーリーは隠密に

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時刻は暖かな陽射しの差し込む午後3時過ぎ。 執務室の窓から降り注ぐ優しい太陽光が弟をふわりと包み込み、とても気持ちよくお昼寝中……というわけではない。 日頃の疲れが祟ったか、書類の整理中に寝落ちてしまったというだけのこと。 「うぅん……んあ? あれ、俺……やっべ寝ちまってた! どーすんだまだ半分も終わってねぇのに!」 ゆっくりと瞼を開いた弟は、机の上の書類の束を見てすぐに現状を思い出した。 寝てしまった所為で、かなり追い込まれていたのだ。 「今時刻は……げ、もうこんな時間!? このくらいまでには書類作業終わらせたかったのに……」 部屋の高そうな壁掛け時計を見ると、時の経過に目を疑った。現実を受け入れることを躊躇ったのである。 「……いや、そんなこと言う暇あるなら手を動かさねぇと! はやく終わらせて……ああああ!?」 だが、過ぎてしまった時間は巻き戻らない。 すぐさま切り替えて作業に手を付け始めたのだが、そこで弟はもう一つ重大なことを思い出し、叫びながら立ち上がった。 「しまったァァァァ! もう冷蔵庫の中身空になっちまったんだった! 買い出しも行かねーと……でも書類が……」 本日の夕食のピンチである。もしも夕飯がないということになれば、屋敷の主人と客人……即ち魔王と女神が揃ってご立腹間違いなしだ。そうなると非常に面倒くさい。 だがこの書類も、できれば今日の夕方頃には提出しておきたいところ。方や屋敷の台所事情を預かる者として、方や魔王軍の中間管理職としてではあるが、どちらも重要な案件だった。 どうするべきかと机の周りをうろうろしながら考えていた弟だったが、ふと妙案を思いつく。 「……多少不安はあるが、この手しかないか」 迷いはあれど、その結論は揺らがない。 弟はそれを実行すべく、執務室を出て、必要な者の名を大きく呼んだのだ。 「メイドーッ! メイドいるかー!? 至急、作業を中断してここまで来い!」 その人物とは、他ならぬこの屋敷唯一の使用人である。 名を呼んで10秒も経てば、弟の目の前にメイド服の少女が馳せ参じた。 「および、ですか、クロードさま」 驚くほどのスピードで推参したのに、呼吸は一切乱れておらず、その瞳はじっと弟を見つめ、次の指示を待っていた。 そんなメイドに慣れてしまった弟は当然のように、上司として命令を下すのだ。 「メイド、おつかいを頼まれてくれ」
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