LV18 一寸先の幸先の闇

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毎日毎日同じことの繰り返し。それを人は日常と呼び、退屈ながらも平穏、かつ皆が願いそして当たり前のように過ごすもの。 だが毎日全てが同じなわけではなく、それはこの魔王城にとっては珍しいことではない。 家事全般を取り仕切る弟は、ここ数日の間に、その日常に潜む違和感を感じ取っていた。 最近、女神の様子がおかしい。 家の中で会えば(全く怖くはないが)じっと睨んできたり、言葉も少々棘があり態度はそっけなく、何より圧倒的に今までよりも口数が少ない。 うるさいのが黙ってくれているのは弟的にはとてもありがたいことなのだが、嵐の前の静けさというやつか、不気味さすら覚える。 今のところ実害はないので放っておくのが得策かと思われるが、もし何かがあれば迅速に対応しなければならない……などと考えながら廊下の掃除をしていると。 「愚民、ちょっといいかしら」 視線を床から上げてみると、そこにはちょうど女神の姿があった。 この偶然か必然か、弟は多少なりとも焦ったが、なんとか平静を取り繕う。 「な、なんだよいきなり。俺になんか用か」 「あんた、こないだクズと一緒にどっか出掛けたんだってね」 何を聞くかと思えばそんなことか。 それは紛れもなく事実なので、落ち着いて首を縦に振れる。 「その通りだが」 「小娘とヘタレもお出かけしてたみたいじゃない」 「あれはお出かけというよりは、おつかいとストーカーなんだが……まあ、外出には違いないな」 「おかしいと思わない?」 「……何が?」 弟はただ疑問に答えてやっているだけのつもりなのだが、女神は口を開くたびに不機嫌そうに頬を膨らましていった。 というか一目で不機嫌だとわかる。その理由はさっぱりわからないが。 「私だけお出かけしてないのはおかしいじゃない! 私は女神なのよ!? どっか出かけるなら私にも一声かけなさいよバカぁ!」 その不満を破裂させた女神は、顔を真っ赤にして叫んだのだった。 要するに、自分だけ外出できていないことに嫉妬している、ということである。 今までの違和感の正体はこれだったのだ。 至極下らない理由に安堵と呆れが入り混じり、そしてこれから何か面倒事が起きるであろう前触れに、弟は小さく溜め息を吐いた。
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