LV18 一寸先の幸先の闇

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………… そして翌日、黒の半袖ワイシャツを羽織りペンダントを首から下げ、外出用私服となった弟は待ち合わせの場所に向かっていた。 一応、言われた通り服装には気を使ったつもりである。髪型はいつもと同じく右目を隠す形で、びしっと決めている。 時刻は午前10時、待ち合わせ時間ジャストに例の交差点に辿り着き、早速女神の姿を発見したのだ。 そして女神もこちらに気付いたようで、歩み寄ってくる……のだが、いきなり不機嫌オーラ全開に見える。 「おっそい! 遅すぎるわ! 今何時だと思ってんの!?」 「何時って……10時ジャスト、待ち合わせ時刻ピッタリだ。約束は守ったはずだぞ、怒られる謂れはねぇ」 「うっさい! ごちゃごちゃ言うな! 私を待たせた時点でそれはもうあんたの罪なの! 大遅刻なのよー!」 開口一番、理不尽に怒りをぶちまけられた。 自分はそちらから出された条件を忠実に守っていただけなのに。理不尽極まりなく、そして理解不能。 やはりこの自己中心女神の相手は疲れる、と思わずため息が漏れる。 「あのなぁ……そうは言っても、俺は時間通りに来ただろ? 確かにお前よりは遅れたかもしれんが、そんなのせいぜい2、3分……」 「30分よ」 「……は?」 聞き間違いだろうか。自分の耳を疑い、もう一度正確に情報を処理すべく聞き返す。 「だーかーらー! 私は30分も待ったのよこのバカー! アホー! このっ……この人混みで30分孤独に立ちっ放しで辛かったんだからぁぁぁぁ!」 女神の中の何かが決壊した。 確かにその言葉には怒りも籠っているが、それ以上に安心感が優っているように感じる。先ほどの態度とは一変、涙をポロポロ零しながらわんわん泣き始めてしまったのだ。 そう、クソザコナメクジメンタルは、大勢の人間に囲まれることによる不安で潰されていたのである。 「ちょっ……!? なんで泣く!? やめろっ、泣きやめ駄女神! 悪目立ちしちまうだろうが!」 「うっさいバカぁ! 私、さみしくて死にそうだったんだからね!? 女神をひとりぼっちにするのは許されない行為よ! 責任取って貰うんだから! うわぁぁぁぁん!」 なかなか泣き止まない女神を必死に宥める弟だが、こうなると長いのもまた駄女神たる所以であった。 この光景を不審に思われたのか、通行人に警察を呼ばれてしまい、その誤解を解くのに更に苦労することになったのは、この10分後のことである。
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