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ようやく警察の職質から解放され、再び街を歩く二人の間には、なんとも言い得ぬ気まずさが漂っていた。
並んで歩いてはいるものの、そこには若干の距離がある。
「もう……あんたの所為で無駄な時間使っちゃったじゃない」
「いやお前の所為だろ、どう考えても」
互いを牽制するようにいがみ合う。
もちろんこんなものは水掛論であり、意味はない。
それよりも、だ。
警察から解放され、落ち着いてきたところに冷静に女神を見ると、改めてその女子力の高さを思い知らされる。
胸元に大きなフリルのついた桃色のトップスに、水色のキュロットスカート。髪型も普段と違ってハーフアップにしていた。
そして元々容姿だけは、肩書き通りの女神級……普段近くにいる女が見た目を気遣わない姉と、常にメイド服の少女なのだから、余計輝いて見える。
「いやいやいや冷静になれ俺ェェェェッ! 目の前にいるのはあの自己中駄女神だぞ! 見た目に騙されるな騙されるな騙されてたまるものかァァァァァ!!」
「愚民!? 突然電柱に何度も頭を打ち付けてどうしたの!? 私のあまりの可愛さに当てられて狂っちゃったのかしら……」
弟、ご乱心。
そして気の毒そうな奴を見るような目の女神の推測も、あながち間違いではないのが更に痛々しさを増していた。
「すまない、取り乱した。もう大丈夫だ」
「全然大丈夫そうに見えないんだけど!? あ、頭から血が、ダラダラーって!」
額から血を流した所為なのかは定かではないが、弟の目は焦点が合っておらず、声のトーンも急に落ち着いている。
その若干スプラッタな光景に、女神は怯え、サーっと顔から血の気が引いた。
「ああ、これか。大丈夫だ、包帯ならある」
そう言いつつ、救急セットを取り出し、手早く自らに応急処置を施していく。どうやって持ち歩いていたのかはわからない。
「まさかそれ、いつも持ち歩いてんの?」
「まあな。いつ姉ちゃんが倒れるかわからんから、常に取り出せるところにないと落ち着かねぇ」
「なんかすごい納得したわ。ていうか、あんた意外と姉思いよね」
意図せず発見してしまった弟の繊細な一面。
弟の抱える気苦労の一端を垣間見たような気がする女神は、思わず首を縦に振っていた。
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