LV18 一寸先の幸先の闇

5/10

1088人が本棚に入れています
本棚に追加
/1013ページ
ようやく警察の職質から解放され、再び街を歩く二人の間には、なんとも言い得ぬ気まずさが漂っていた。 並んで歩いてはいるものの、そこには若干の距離がある。 「もう……あんたの所為で無駄な時間使っちゃったじゃない」 「いやお前の所為だろ、どう考えても」 互いを牽制するようにいがみ合う。 もちろんこんなものは水掛論であり、意味はない。 それよりも、だ。 警察から解放され、落ち着いてきたところに冷静に女神を見ると、改めてその女子力の高さを思い知らされる。 胸元に大きなフリルのついた桃色のトップスに、水色のキュロットスカート。髪型も普段と違ってハーフアップにしていた。 そして元々容姿だけは、肩書き通りの女神級……普段近くにいる女が見た目を気遣わない姉と、常にメイド服の少女なのだから、余計輝いて見える。 「いやいやいや冷静になれ俺ェェェェッ! 目の前にいるのはあの自己中駄女神だぞ! 見た目に騙されるな騙されるな騙されてたまるものかァァァァァ!!」 「愚民!? 突然電柱に何度も頭を打ち付けてどうしたの!? 私のあまりの可愛さに当てられて狂っちゃったのかしら……」 弟、ご乱心。 そして気の毒そうな奴を見るような目の女神の推測も、あながち間違いではないのが更に痛々しさを増していた。 「すまない、取り乱した。もう大丈夫だ」 「全然大丈夫そうに見えないんだけど!? あ、頭から血が、ダラダラーって!」 額から血を流した所為なのかは定かではないが、弟の目は焦点が合っておらず、声のトーンも急に落ち着いている。 その若干スプラッタな光景に、女神は怯え、サーっと顔から血の気が引いた。 「ああ、これか。大丈夫だ、包帯ならある」 そう言いつつ、救急セットを取り出し、手早く自らに応急処置を施していく。どうやって持ち歩いていたのかはわからない。 「まさかそれ、いつも持ち歩いてんの?」 「まあな。いつ姉ちゃんが倒れるかわからんから、常に取り出せるところにないと落ち着かねぇ」 「なんかすごい納得したわ。ていうか、あんた意外と(クズ)思いよね」 意図せず発見してしまった弟の繊細な一面。 弟の抱える気苦労の一端を垣間見たような気がする女神は、思わず首を縦に振っていた。
/1013ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1088人が本棚に入れています
本棚に追加