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「愚民、ちょっと止まって」
「あん?」
再び並んで歩いていた二人だったが、女神は急に足を止め、弟のシャツの裾をくいっと引っ張った。
促されるまま視線を向けると、年季が入りながらも、掃除が行き届き清潔感のある喫茶店が建っていた。
「この外観、間違いないわ! 雑誌に載ってたお店よ! ね、この店でお昼にしましょ」
「確かに腹減ったな……誰かさんの所為で警察の世話になっちまって疲れたからかな」
「なんか言った?」
「別にぃー?」
「ならいいわ」
特に異議申し立てるようなこともないので、その喫茶店に入ることに。
ついつい小声で弟から愚痴がこぼれる。だが女神は上機嫌であったためか、さほど気にすることもなく、簡単に誤魔化されていた。
そして揃って店内へ足を踏み入れると、アンティーク風の内装が目に飛び込んでくる。
満席というわけではないが、充分な賑わいを見せており、他のお客の程よい話し声とクラシックをバックに、窓際のテーブルに案内された。
「この店はね、サンドイッチが名物なのよ! 雑誌に書いてあった!」
「へぇー……じゃあそのセットでいいか。……ん?」
雑誌情報を得意げに披露する女神の言葉を、メニュー表をぱらぱらめくりながら聞き流していた弟だったが、どうやら気になる項目を発見したようだ。
「ラテアート体験……? 珍しいことやってんだな」
「いいところに目をつけたわね! 私もそれやってみたかったの! ほら、なんかラテアートって字面だけでおしゃれじゃない?」
どうやらこの選択は、女神的にはアリだったらしく、明らかにテンションが上がった。
リア充っぽいものに憧れを抱く、ミーハー女神がこの機を逃すはずがないのである。
「じゃあ注文は決まりね。……ところで愚民、このラテアートでどちらがより上手い絵を描けるか勝負しない?」
「ほう……この俺に勝負を挑むとはいい度胸だ。いいぜ、受けて立とう」
何を頼むかまとまったところで、女神が勝負を持ちかけてきた。
突然の宣戦布告だったが、弟は自信満々余裕な態度でそれを飲む。
「ふふん、このハイパー女神的美的センスを持った私との勝負を軽々しく受けたことを後悔するがいいわ! 罰ゲームは相手の命令に絶対服従よ!」
「いいだろう……望むところだ」
そして店員にはサンドイッチセットとラテアート体験をオーダー。かくして、二人のラテアート対決の火蓋が落とされたのだった。
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