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注文してから5分と待たずに、ラテアート体験の道具を用意した店員がテーブルへやってきた。
この分なら、ラテアートを作っている間にサンドイッチセットも届くだろう。退屈しない良い時間の使い方だ。
「よーし、じゃあやるか」
気合を入れるように小さく呟いた弟は、説明役の店員が話し出す前に、さっさと作業に移っていた。
「え、ちょっと!? まだ説明聞いてないわよ!?」
「いらん。お前は店員にマンツーマンで教えて貰え」
迷いなく手を動かす弟に驚く女神だったが、軽くあしらわれてしまった。
その弟は口を開きながらもラテアートを作る余裕はあるらしく、淀みなく作業を進めていく。
「け、経験者だったなんて聞いてないわよ~っ! ずるいずるい! この勝負は無効なんだから!」
「今更何を言っても無駄だッ! 約束は守って貰うからなッ!」
女神の泣き言にも一切耳を貸さない。
なんだかんだ文句を言いつつも、四苦八苦しながら女神はラテアートを作り始め……工程を半分ほど終えたところで、弟は早くも完成させたのである。
「できたぜ。どうよコレ」
弟は、ラテアートで女神の似顔絵を描いていた。
それもクオリティが高すぎる。鉛筆でスケッチしたと言っても通じそうなレベルだ。
「うまっ! これ上手すぎじゃない!? ってか、もしかして……私?」
「何を描くか迷ったから、目の前にいるしいいか、って。モデル見ながらだったから楽勝だったぜ」
「悔しいけど、これは認めざるを得ないわね……まさか愚民にこんな地味な特技があったなんて……」
「一時期ラテアートに凝っててな。暇があれば練習してたんだよ。飲み切れなかった分は城の使用人達に振舞ってさ」
「あんた、よっぽど暇だったのね」
この話をしている間は、弟は終始得意げだったが、女神には謎の感情が湧き上がっていた。
一人で延々とラテアートを作り続ける弟を想像したら、なんだか哀れになってきたのである。
「んで、お前のももう完成か……? 流石、店員が丁寧に教えてくれただけあって、初めてにしちゃあ上出来だが、俺には及ばねぇな!」
「や、やっぱりこんなの卑怯だって! 今回のはノーゲームよ!」
「勝負を仕掛けてきたのはお前だろ?」
勝敗はほぼ決したが、罰ゲームは受けたくない女神。
必死に最後の悪足掻きをするも、弟はそれを許すわけもなく、その全てを突っぱねた。
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