LV18 一寸先の幸先の闇

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罰ゲーム云々について口論になりながらも、もう一つの注文であるサンドイッチセットが運ばれてくると、一時休戦。 二人は食事の方へ気を向けることにした。 「あ、これ美味しい」 「確かにな。これ、今度朝食で再現してみよう」 一口でその味に舌鼓を打ち、弟に至ってはケータイで写真と、メモ帳になにやら熱心に書き綴っている。 そんな弟の様子が気になるのか、ちらちら視線をやる女神だったが、何か声を掛けるようなことはしなかった。 「まあこんなもんか……」 「なにを書いてたの?」 「サンドイッチに使われてる材料とか、味の感想を割と細かく。ドレッシングはおそらく店のオリジナルだろうが、味さえ覚えてりゃかなり近いものは作れるからな」 「嘘っ、あんたまだ一口しか食べてないのに!? どんな味覚してんのよ!?」 「人より優れてる程度には」 驚いて大きなリアクションを取る女神に対し、弟はさも当然のことをしたまでとまるで動じていない。 涼しい表情で再びサンドイッチをひと齧りしつつ、改めて周囲を見回してみた。 「にしても……なんかこう、若ぇ男と女の二人組ばっかじゃねーか? この店」 「カップル御用達って雑誌に書いてあったわ。そういう層に人気なんじゃない? そうやってリア充にイチャつかれると居心地悪くなっていけないわ」 「珍しく同感だ」 周りの客層に気付くと、弟は僅かに顔をしかめた。 女神も同様で、明らかにムスッと機嫌が悪くなる。 そして二人、ほぼ同じタイミングで溜め息を吐いた。そして自分の置かれた状況を、ふと軽くおさらいしてみる。 若い男女二人。これらは、自分達にも当てはまるもので。 「いやいやいや、無い! そりゃ無いわー! この駄女神がどんだけ振り回してきたと思ってんだ、付き合い切れねーわ! よく警察の世話になってるし!」 「いやいやいや、無い! 絶対ありえないんだけどー! この勘違いファッション前髪だけは絶対にない! 頭に巻いた包帯も相まってすごくイタい格好してるし!」 何をと問われたわけではないし、誰に向けたものなのかもわからないが、二人は同時に、自発的に、そういった可能性を断固否定していた。 それにどういう意図があるのかは本人たちすらもわからない。だがおそらく、自分に向けた暗示のようなものだったのだろう。 一瞬でも、ほんの僅かでも、そんな血迷った思いを抱かぬようにと。
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