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その後、サンドイッチを食べ終えた二人は、特にこれといった会話もなく喫茶店を後にした。
心なしか、喫茶店へ来る前よりも二人の間の距離感は遠い。
「あんたみたいな愚民が勘違いしないように一応言っておくけど、これはアレだから、全然そういうのじゃないから。あんたはただの付き人であって、思い上がるなんて絶対に許されないことだからね」
「はぁー? 急に何を言い出すんだこの駄女神は。俺だって別にその、そういうアレなんてつもり欠片もねーから。ついてきてやったのも、家でクズや発狂野郎に囲まれるよりマシだからだし」
妙な空気になってしまうと、あとはお互い険悪になっていくだけである。
二人とも真逆の方向に顔を向けながら、言葉の矛で突き合う、そんなピリッとした約1メートルの隙間。
「まーいいわ、次は服よ、服。私のために次の季節の最新コーデ一式、揃ってプレゼントしてよね」
その空気を断ち、楽しみにしていたうちの一つ、ショッピングの話題を切り出した女神。
だが、その切り出し方がいけなかった。
「なんで俺がんなことしなきゃならねーんだ」
弟の機嫌が、また少し悪い角度に傾いた。
「そりゃもちろん感謝料よ。私みたいに可愛くて貴い女神の隣をこうして歩けているんだから、そのくらいは当然でしょ」
「あ? 言っとくけどお前にそこまでする価値なんてねーからな? 寝室と毎日の食事提供してやってる現状がどれほど破格の待遇だと思ってやがる。これ以上てめーに掛けられる金はない」
今日はなりを潜めていた女神の傲慢かつ自己中心思考が、ここにきて露呈してしまったのだ。
そしてその態度が気に障った弟も食ってかかる。事実、人数増加に伴い食費の高騰、そして最近よく遊びに出ていることによる予想外の出費が激しく、魔界からの仕送りにも余裕がなくなってきていた。
「私は女神なのよ? ありがたがられて当たり前の存在なの。つまり服だって買ってもらえる。なんでそれがわかんないのかしら」
「じゃあお前は俺になんかしたか? してねーよな。さっきの喫茶店だって俺が奢ったし。そんなに欲しいモンがありゃバイトでもして稼ぐんだな」
だが、あくまでも女神は自分の主張を譲らない。
それが尚、弟の琴線に触れる。今の所、女神を養うことによるメリットが、彼には見当たらないからだ。
当然意見は食い違い、喧嘩にまで発展。最早お出かけという空気ではなくなってしまった。
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