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埃っぽくて嫌な空気が充満していた。とてもじゃないが、マスクを外して行動する事は考えられない。
窓はあるものの、北側なので陽当たりは悪い。まさにあるだけのお飾りと化していた。
その薄暗い空間には、山積みになった大量の荷物。詰まる所、この場所は魔王城の倉庫であった。
そんなところに弟が何の用かと言うと、単にこの5ヶ月ほど放置していたこの場所の整理のためである。
「……まだ半年経ってねぇのに、なんでこんなに荷物あんだよ」
その光景を見て、弟の口からは大きな大きな溜め息が漏れた。
実際、荷物がやたらと多い真相はと言うと、姉弟の父である大魔王が、何かあっても大丈夫なようにと、あれやこれやと送ってきたものが溜まりに溜まって今に至る。
「まあ文句言ってても仕方ない……やるかぁー」
気は進まないが、やることはやらねば気が済まない性分の弟。
文句を垂れつつも手は動かす。
だが、少しして弟は何かを発見し、一時的に手を止めた。
「……出たよ。片付けイベント恒例のヤツが」
そう言いながら弟が手に取ったのは家族アルバム。
何故こんなものが……との考えが一瞬よぎったが、思い返せば父、大魔王は家族の人数分全く同じアルバムを自主制作していたのを思い出した。これはおそらく、自分か姉の分だろう。
「いやいやいや……これはいい。置いとこう。つーか見たくない」
と、作業遅延の懸念と羞恥心を理由に、アルバムをそっとダンボールの上に置いた。
そして作業を再開するが、またも気になるものが。
「こんな目立つトコに……確かこれ、親父が若い頃着てたっつー甲冑か。こんなに埃被ってまあ……くっさ! 何これ汗臭ッ!」
かつて大魔王が戦場を駆けていた時の甲冑。つまりは由緒正しいお下がりである。
その由緒正しい鎧に、惜しみ無く消臭剤を霧吹きで掛けまくった。
「鼻がひん曲がるかと思った……親父の体臭は若ぇ頃からキツかったんだな……」
さらっと大魔王をディスりつつ、手は休めない。
甲冑から目を背けるようにして漁ったダンボールから弟が見つけたものは。
「これは……! また懐かしいものを……でも、姉ちゃん含め、最近運動不足を実感したところだし……倉庫整理終わったら試してみるか、うん」
なにやら箱を持って頷く弟は、それを倉庫の入り口付近に置いてキープ。
後の楽しみを考えると力を発揮するタイプの弟は、黙々と作業に励むのであった。
…………
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