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そんなわけで、倉庫整理を終えた弟は、半ば無理矢理城の住人全てをリビングに呼び出した。
そのリビングは、メイドによってソファやテーブルが端の方に寄せられており、ぽっかりと広いスペースが空いている。彼ら5人は、唯一動かされていない大型の薄型テレビの前に集合している形である。
「何の用だよ弟てめぇ……私ゃこれからネトゲのイベントに潜んなきゃいけねーんだよ。下らねぇ用事ならマジぶっ殺す」
と、いつものピンクジャージ着用の魔王は不機嫌を隠すこともせず弟を睨みつけた。
最も、この呼び出しに疑問を感じているのは魔王だけではなかったらしい。
「動きやすい格好で、って言うから着替えたけど……外に行くわけじゃないの? ほんとになにするつもりなのよ」
それが、ラフなパンツスタイルの女神だ。
あれこれと着込んでいない分、その大きな胸がより際立っている。
「俺もそうだが、最近てめぇらはたるんでる」
その質問に答えるように、弟が全員を見回した。
そして一呼吸置き、自らの背に隠していたそれを、自身の前に突き出すようにして4人に見せ付けた。
「だから運動して体を鍛えんだよ……このフリーズヒートキャンプでな!」
「冷たいのか熱いのかわからんキャンプだな……」
聞き覚えのない名称にツッコミを入れたのは勇者である。彼もまた、白基調のジャージスタイルで、長身も相まってなかなか様になっている。
「あー、懐かしいなソレ。10年くらい前に魔界で流行ったヤツか」
だが、当然弟とは同じ出身の魔王は、そのDVDのジャケットに見覚えがあった。
自身のお下がりである体操服を着たメイドにもたれかかりつつ、当時のことを想起する。
「海軍仕込みのエクササイズとか言って、結構キッツイって話じゃなかったか。そんなもん私にやらせようとしてんのかてめーは」
「もちろん最初から完走できるとは思ってねーよ。だがこういうのはやることが大事なんだ。最初から全部は無理でも、いずれフルで通せりゃいいじゃねーか」
前評判の段階で、早速やる気が著しく減退していく魔王に対し、弟は非常に前向きだった。
上手くいけば、城全体の運動不足解消に繋がる。そしてそれは魔王のヒキニート脱却の足掛かりにもなると信じていた。
一先ずはお試しということで……これを機に、日課にしてしまおうというのが今回の弟の目論見である。
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