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だが、誰にでも従順なメイドならば兎も角、一癖も二癖もあるメンツがそう簡単に納得するかと言えばそうではなく。
「えー!? それ私もやんなきゃいけないわけ!? イヤよそんなの! ていうか、私はエクササイズなんてしなくても完璧なスタイルなんだから! そんなのする必要ないしぃー!」
「僕だって御免だぞ! どうしてわざわざこの穢れ共と同じ空間でそんなことしなきゃならないんだ!」
女神や勇者からも文句の嵐。
だが、こうなることすら弟は織り込み済みだ。
ふぅ、と軽く息を吐き、そして二人と目を合わせる。
「最近の男子は運動してる女が好みらしいぞ」
「マジでっ!? じゃ、じゃあ、ちょっとだけ……ちょっとだけならがんばってみよーかなー……?」
「自分より運動できない奴はありえないってメイドが言ってたぞ」
「何ィ!? それを早く言えケガサキぃ! 事情が変わった、徹底的にやってやろうじゃないか!」
それぞれに向けたたった一言で、彼らをその気にさせた。
弟が策士……ということはなく、単に二人がチョロかっただけの話であるのだが。
「ちぃ、この情弱共がッ……私は運動なんてしねーからな! 引きこもり最高! ノーニートノーライフ! 無駄に動く人生なんて損してる!」
だが一番の難敵がまだ残っている。
ラスボスこと魔王は、なんとも情けない宣言を恥ずかしげもなく高らかに言い放ち、その確固たる意思を弟に見せ付けた。
……が、引き下がっては意味がない。引き下がるわけにはいかない。
魔王の社会復帰プログラムの一つとして、健康体に変身を遂げさせると決めたその時から。
「……知ってるか、姉ちゃん」
「あ? なにを?」
「フリーズヒートキャンプ考案者のフリー隊長なんだが……バイらしいぞ」
「よーし百聞は一見にしかずと言う。早速DVDを再生してみようじゃねーか」
魔王もとても変わり身が早かった。
いっそ清々しいほどに欲望に忠実。フリー隊長見たさにDVD再生を促すほどには、ホモネタの補給に余念がない。
もちろん、弟が咄嗟に言ったでまかせである。
フリー隊長こと、かつて魔王海軍大佐にまで上り詰めたフリードリヒ=ナカヤマ=ビルドレイク氏は、確かに一時期魔界のネットでホモ疑惑が持ち上がってはいるが、実際は5歳年下の美人な奥さんがいる立派な妻帯者だ。
何故そのような噂が立ったかは定かではないが、ネットとはそういうものなのだ。おそろしや。
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