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……と、そこでついに弟が気付いてしまった。
「あれ、俺らまともに運動してなくない……?」
そう、その原点にして最も本質的なことに。
彼らはそもそも、運動不足だの身体能力だの、それ以前に問題があったのだ。そして誰一人として、今までそれを疑問視することなく、当然のように過ごしていた。
「くっ、いかん……このままじゃ何も変わらない……何か、何かないのか……ッ!」
生活習慣改善のために、と自ら発案したこのフリーズヒートキャンプの実践。
それが他の者のみならず、弟自身の心が折れかかり頓挫するところだったのを、どうにか思い直すことには成功した。
ぐるぐると頭の中を稲妻の如く思考が駆け巡り、弟の脳は最高の集中力を発揮していた。無駄に。
「……見えたッ、逆転の一手……!」
弟の赤い左目がキラリと光る。
そして大きく息を吸い込むと、高らかに、その手を打った。
「よく聞けお前ら! 見たままの映像に囚われてはいけない!」
その大きな声に、魔王も女神も勇者も弟の方に振り返った。メイドだけはエクササイズに夢中になっていたために、見向きもしなかったが。
「フリー隊長が色々と指導しているあの生徒……アレは女じゃない!」
「「「な、なんだってーッ!?」」」
迫真の表情で、とんでもないことを口走り始めた。
だが、3人はその勢いにまんまと乗せられたようで、これまた本気の驚き顔で応えた。
「そうだ、騙されるな! あいつらは全員男だ! 確かに一見女にしか見えないが、男なんだ! 女にしか見えない男だったんだよォォォォ!!」
「つまりフリー隊長は男を触っている……!? おいおいおい、そりゃまるでガチのホモじゃねーか!」
「確かにそう考えると、私がキモがる意味がわかんないわ! 同性でじゃれてるだけだったのね!」
「穢れに触れているわけじゃない……従ってフリー隊長の行動は極めて自然! 合理的だァ!」
右手を胸の前で何かを掴むように開いた弟が力強く叫ぶと、3人は「そういうことだったのか!」と、新たな見解を示されたことに驚嘆する。
文字通り、たった一手で各々4人の不満点を同時に全て解消してしまったのである。
「これなら誰も傷つかない! イヤッホォォウ!」
「いぇぇぇっへぇ!」「やったわー!」「最高だぜぇーっ!」
諸手を挙げて喜ぶ4人のテンションが壊れたのだが、果たして得たものに対して釣り合っているのだろうか。
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