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お昼を食べ終え、弟は食器洗いを、勇者はリビングダイニングの掃除をしながら、彼らは何もない平穏な今日を過ごす。
何事もなければ比較的まともな感性を持つ城の男性陣は、2人でいる時はそこそこ会話を交わす間柄にまで発展していた。
因みに、魔王と女神は食べ過ぎの為に体調を崩し、メイドに2人仲良く介抱されている。
「はぁー……」
そんな勇者は、朝からずっと浮かない顔である。
隙あらば溜息を吐き散らし、重苦しい雰囲気を纏い続けていた。尤も、基本的に空気の読めない城のメンバーの中では大して気にされなかったが。
「はぁぁぁぁ……」
「……っるせぇ!! なんなんだよお前ェ! 息吸うごとに溜めて吐きやがって! なんか気ィ遣っちまって気持ち悪ぃだろうがいい加減にしろ!!」
だが、まだまともな方の部類に入る感性を持つ弟は、とうとう我慢の限界に達したのだ。
ずーっと近くでヘヴィ級の溜息を聞かされ続けられては、弟もストレスが溜まるというもの。
「なんだよ、お前の声の方がうるさいじゃないか」
「今は俺の事ァどーでもいい! それよりお前だよお前! 構ってほしそーにこれみよがしに二酸化炭素ぶち撒けやがって……!」
日頃ストレスに晒され続けている所為か、一度キレると烈火の如く燃え上がるのが弟だ。溜め込んだものを定期的に爆発させることで精神安定を図るタイプである。
「まーてめぇのことだ、だいたい予想はつくがな。どうせメイド関連なんだろ」
「ぐっ……!」
吐き捨てるような弟の台詞は、ズバリ的中だったらしい。
勇者は図星を突かれ、動揺し言葉を飲んだ。
「フリーズヒートキャンプでは失態を演じてしまった……あんな穢れた姿を、メイドちゃんに晒して……うわぁぁぁぁ僕はもう駄目だァァァァ! 絶対嫌われたァァァァ!」
「うるせぇ……」
先日の出来事を思い出し、勇者はガクッと膝から崩れ落ちる。頭を抱え、絶望し絶叫した。
これもまた、弟からするとよく見慣れた光景。ある意味日常と言えるため、貫禄のスルースキル発動。
と、その時、屋敷中にインターホンの音が鳴り響く。
「誰だ、こんな屋敷に用のある奴ァ……勇者、出てこい」
「はぁ? 何故僕が……」
「俺は食器洗いで手が離せない。だからお前が行け」
弟は勇者に一切の口答えを許さない。
何を言っても無駄な雰囲気を醸し出され、勇者はしぶしぶ従わざるを得なくなった。
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