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「ったく……そもそも僕は捕虜って『てい』だろ? 丁重に扱うとか言ってたくせに、インターホン鳴ったら玄関出ろとか何様のつもりだあの前髪ぃ……」
ぶつくさと愚痴を垂れ流しつつも、その足はしっかりと玄関へ向かっていた。
納得はしていないものの、客の出迎え程度ならやぶさかではない、といった心理状態である。
歩きながら懐に忍ばせた使い捨てマスクと帽子を被り、外界の空気に触れる用意は万端。本来ならサングラスもするところだが、生憎部屋に置き忘れてしまったようだ。取りに行くことも考えたが、あまり待たせすぎるのも後が怖い。
「はい、どちらさまで……?」
結局、サングラスはしないまま扉を開けることを選んだ。
顔が出る程度の角度に開いたドアから、おそるおそるで外の様子を伺い見る。
「あれ、誰もいない……? タチの悪いいたずらか。だとしたらピンポンダッシュされる魔王城ってそれはどうなんだ……一応ラストダンジョンなのに舐められすぎだろう」
しかし見たところ人の姿は見当たらない。
余計な手間を掛けさせられたことには少し腹が立つが、それ以上に安心感が勝る。
下手に穢れの相手をしなくて済んだからだ。
そして自分で言っておいてなんだが、この城は舐められても仕方ないと思った。
「いたずらではありませんわー! わたくし、ちゃんとこのお城に用があって参りましたのよー!」
「うぉぉぁぁぁ!?」
油断しきったところで、突然大きな声が勇者の鼓膜に飛び込んできた。驚き過ぎて情けない声を上げ、大きく仰け反って背中からすっ転んだ。
「アーッ! 痛い! 背中が痛い! 思いっきり打ったァァァァ!」
完全に不意を突かれたのもあって、受け身も取れず。そのまま痛みに悶絶することに。
「まあ、大変! 大丈夫ですの!?」
それを気の毒に思ったのか、その声の主……まだ年端もいかぬ少女が、カッコ悪くじたばたする勇者の近くまで行き、しゃがみこんだ。
取り敢えず勇者を横に寝かせて、その背中をさすってあげることに。
「ああ……一先ず痛みは和らいだ気がする」
「それは吉報ですわー!」
その甲斐あってか(もともと大したダメージでもなかった)勇者もすぐに復活。復活を少女の笑顔が祝福してくれる。
改めて礼を言おうと立ち上がると、その少女の小柄さが浮き彫りになる。勇者が長身なこともあって余計そう感じるのかもしれない。
目測では、120cmほどだろうか。
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