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少女と向かい合うと、先ほどはよくわからなかったその姿がはっきりと見える。
ピンク色のツインテールは年相応の可愛らしさを演出することに成功している。左が赤、右が青のオッドアイの瞳は大きく丸いルビーとサファイアのよう。
これだけなら普通の可憐な美少女なのだが、奇抜なのはその格好。
どう見てもスクール水着にしか見えない。勇者が何度目を擦っても、どうしてもスクール水着にしか見えなかった。
さらには赤いランドセルを背負い、隙間からはリコーダーが飛び出ている。何を思ってのコーディネートなのか、勇者の理解は全く及ばない。
「え、えっと……とりあえず、助けてくれてありがとう」
「どういたしまして! いいことをすると気持ち良いですわー!」
戸惑いつつも、礼節は欠かさない。
そして少女もそれに満面の笑みで応える。こんなに無垢な笑顔を向けられた経験は、勇者にはなかった。
「そ、それで……君はこんな辺境までなんの用だい?」
「あ、そうそう! そうでしたわ! わたくし、このお城に住んでいるお兄ちゃまとお姉ちゃまに会いに来たのですわ!」
「お兄……? ってまさか……いや、もしかしなくても……」
これを尋ねないわけにはいかない、と訪問の理由を伺うと、スク水少女はなんのためらいもなしに答えてくれた。
その中でも勇者には心当たりのある単語が。ほぼ確信を持って勘ぐっていると、リビングの方の扉が開かれ、とある人影がこちらを覗き込む。
「おい、客の応対にいつまで掛かってんだ、さっさと戻って来やが……」
「あ、お兄ちゃま! 発見! ですわー!」
その人物とは、言わずもがな弟のことであり、そして早々にスク水少女と目が合って硬直した。
「やっぱりな……というか貴様ら、二人姉弟じゃなかったんだな。まさか妹までいるとは」
「ななな、なんでこんなところに……!?」
「えへへー、来ちゃった! ですわ!」
最早勇者の言葉は耳を素通りしており、受けた衝撃が強過ぎて石のように固まる弟。
そしてスク水少女は、そんな弟の腰に腕を回し、ぎゅーっと抱きついた。嬉しそうに頬擦りまでして。
「お兄ちゃま! 会えてとっても嬉しいですわ!」
こうして見ると、単に兄に甘える無邪気な幼子のようにしか見えず、あの姉と血が繋がっているとは俄かには信じ難い。
なお、弟の硬直が解けるまで、もうしばしの時間を要することになった。
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