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「メイドちゃまー! お外であーそびーましょー! ですわー!」
掃除を終え、ひと段落ついたメイドの背中に、妹は元気よく飛び乗った。
だがメイドは嫌な顔一つせず受け入れて、自然とその足を玄関へと向かわせる。
因みに、本日の妹の格好は、ダボダボの男物の白いシャツ一枚、所謂裸ワイシャツ。妹曰く、これはラフな部屋着なのだと言う。
「いもうとさま、きょうは、なにを、しますか」
「そうですわねー……メイドちゃま、なわとびは知っていますの?」
「いえ、しり、ません」
「では、わたくしが教えてさしあげますわー!」
まさに意気揚々、無邪気にはしゃぐ妹の笑顔は、闇を払う眩き太陽の如し。
普段の仕事と並行して、先日から妹の世話も任されているメイドではあるが、まるで疲れを見せていない。さんざん振り回されているはずなのだが、流石はフリーズヒートキャンプを余裕で熟す体力を持つだけはある。
妹が楽しそうにお喋りをしているうちに階段を下りきり、玄関はもう目の前……というところで、インターホンが鳴り響いた。
「あら? お客さまですの? こうして目の前にいることですし……わたくしがお出迎えしますわー! 長くお待たせするのも失礼ですし」
ぴょんとメイドの背から飛び降りると、妹は玄関の扉に手を掛ける。
そしてなんのためらいもなくドアノブを回しながら、元気な声と笑顔を客人に向けたのだ。
「いらっしゃいませですわー! ようこそおいでくださいましたですのー!」
「……何をしているのですか。姫様」
返ってきたのは、妹とは対照的に冷淡なリアクションだった。
赤が混じったような黒髪に、濃藍の瞳は切れ長で、右側だけの片眼鏡を掛けた細身の男性。その彼は、確かに妹のことを「姫様」と呼んだ。
「思ったより早いお迎えですのね……」
「これでも充分、譲歩したのですけれど」
先ほどまでの元気はどこへやら、妹は肩を落とし、無意識に一歩後ずさる。
きっちりスーツを着こなした男性は、軽く溜め息を吐いただけ。その考えを読み取ることは困難だ。
「はいはいどちらさん? 今出ますよっと……」
インターホンの音を聞いた弟が、ちょうどそのタイミングで顔を出したのだ。
そして、片眼鏡の彼を視界に入れた弟は、驚愕の表情を浮かべる。
「ななななっ、なんでてめぇがここにいやがんだ、ツカサァァァァっ!」
「おや。お久しぶりですね」
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