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「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!? 私のゲームが! 本が! グッズが! データがァァァァァ!!」
魔力光線兵器の暴発の末、魔王の城は一瞬にして瓦礫の山と化し、城の主人は発狂して絶叫した。
ヒキニートにとって、家はまさに堅牢な要塞にして宝物庫。それが粉々に砕け散ったのだから、正気を失ったのも無理もない。
憎らしいほどの晴天の中、魔王の声がどこまでも高々と響き渡る。
「なっ……なんてことしてくれたんだ貴様ァ! どうするんだこれ!」
「うぁぁぁごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ! まさかこんなことになるとは思わなかったのぉぉぉぉ! わざとじゃないのぉ! ごめんなさい許してぇぇぇぇ!!」
ここで誰かを責めてもなんにもならないとわかってはいるが、勇者はその直接の原因となった女神を糾弾せずにはいられなかった。住居を失った動揺と衝撃が、冷静さを奪ったのだ。
尤も、その女神は勇者に言われるまでもなく、土下座しながら謝罪の言葉を述べ、号泣していた。実は一番心的ダメージを負っているのが、この女神だったりする。
そのあまりに派手な泣きわめきっぷりに、勇者はドン引きだ。おかげで冷静になることはできたが。
「……と、とにかくこれはマズいんじゃないのか? なぁ、ケガサキ……」
「んんーっ……今日も素晴らしい天気だ。ははっ、本当に綺麗で……何もなくて……はははっ!」
「ケガサキぃぃぃぃッ!? 現実から目を背けるな! しっかりしろォォォォ! 貴様が投げたら僕たち全員おしまいだぞ!?」
弟の方へ振り返れば、彼は何が可笑しいのか、乾いた笑いが止まらなくなっている。
虚ろな目で雲一つない真っ青な空を見上げて笑う弟の心は、度重なるストレスにより城と共に崩壊してしまったのだろうか。
勇者はなんとかこちら側へ引き戻そうと説得するのだが、もう見ていられない。見ていて辛い。
こうなったら最後の心の拠り所……と、メイドの方へ目を向けると。
「おしろが……」
メイドは、静かに涙を流していた。
彼女自身、自分の中にある感情の変化がなんなのか、全く理解できていない。
視界が潤み、言葉は喉頭を通過するのを拒否していた。ただ、心臓をえぐり取られたような苦しみが、メイドに襲いかかる。
そんなメイドに、勇者は掛ける言葉が見つからなかった。
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