LV23 ゼロから始まる借家暮らし

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説明もほどほどに、店員が用意した書類に素早くサインしていく。もちろん、注意事項など要点には目を通した上で。 「……はい、契約完了ですね。それでは早速、物件までご案内します」 記入事項に欠けがないのを確認すると、書類をファイルに綴じて、不動産屋は席を立った。 とうとう新居に! と、一行のテンションは右肩上がり。あまり喋ることのないメイドすら、他の者の雰囲気に当てられて楽しげだ。 「クク……この私に相応しい家なら、城が直ったあとも別荘として使ってやろうか。なあ、ドブ雌」 「はい、ねえさま」 「新しくて綺麗な家ならなんでも……というか、綺麗な家じゃなきゃ住みたくない」 「綺麗に決まってるじゃない! 前まで住んでたのがあの広い豪邸よ? そんな急にグレードダウンするわけが……」 「着いたぞお前ら。ここだ、ここ」 店からもかなり近く、徒歩で数分以内の場所に、仮住まいはあった。 道中も皆、各々新居に対する期待を膨らませる一方、弟が到着を告げる……と、ピタリと会話が止む。文字通りの絶句である。 「……で、どこだって? 弟ォ」 「だから目の前にあんだろ、ほら」 まさかと思い、魔王が確認するも、現実は覆らない。 そう、目の前のボロアパート……築50年以上、木造二階建て、一部屋六畳、風呂なしの集合住宅、その名も『南界荘』である。 「ちょ、ちょっと待って! 流石にコレはなんかの間違いよね!?」 「コレに住むのか!? 貴様ら仮にも王族だろう!? プライドはないのか!」 当然ながら、女神と勇者も抗議活動に参加する。 思っていたのと180度違うのだから無理もない。 「ちょうど部屋もいい感じに空いてたし安かったからな。勇者は102、姉ちゃんとメイドは202、女神が203号室を使ってくれ。俺は103号室にいるから、用があれば来るように」 鍵を投げ渡しながら、さらりと説明だけして、さっさと自室に入ろうとする弟……を、簡単には逃さないのも彼らだ。 「おいどういうことだ弟ォ! ちゃんと説明しやがれェェェェッ!!」 「そーよ! もっとこう……あるでしょ!? なにかしら!」 「こんなボロいところに住めるかァァァァ! 真面目に探したのか!?」 凄まじい剣幕で、声を揃えて弟を糾弾する3人。 だが、弟はたった一言、冷たく言い放つ。 「近所迷惑です」 無関係を装うという最低な投げ方をした上で、ドアを閉めて中から鍵もかけてしまったのであった。
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