LV24 残り物にはワケがある

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擦り切れた畳、亀裂の入った壁、明らかに補修された痕跡のある窓。 見渡せば見渡すほどにボロボロの部屋は、最早擁護のしようがなく、居心地で言えば最低クラスだ。 特に、仮にも王族である弟は、このような劣悪な環境に身を置いたことなど一度もない。節約の為に、ということでなんとか我慢はできるものの、居るだけでストレスになっていることも、また事実である。 思えば、今日は一日中まともに休めてさえいなかった。あらゆる出来事が津波の如く押し寄せた影響か、一先ず部屋を見つけることが出来た安心感も相まって、あっという間に疲労感が体中を満たしていく。 「あー……疲れた……姉ちゃんじゃねーが、しばらくは動きたくもない……ってか臭っ。この部屋なんか変な臭いするんだけど何コレ臭っ」 畳の上に四肢を投げ出して、シミだらけの天井を仰ぎ見た。普段の彼ならば絶対にこんなことはしないと言い切れるだけに、その疲労度の高さを窺い知ることができる。 独特の臭いの正体はわからないが、以前の住人の生活臭が残っているか、はたまた部屋の老朽化に伴うものか……或いは両方か。大方そんなところだろう。 尤も、そんな考察に意味はない。後から徹底的に消臭するだけなのだから。 「……そういや静かになったな。流石に諦めたか」 部屋に時計がないので、どれだけの時間が経過したかは定かではないが、外からの騒音……すなわち、魔王らの抗議の声は消えていた。 おそらく彼らも納得したわけではないだろうが、長時間叫び続ける気力を早々に無くしたのだろう。体力も根気もないから、魔王はクズで女神もゴミで、勇者はヘタレなのだ。 それに、こうなることは確信に近い形で予感していた弟だからこそ、彼らの話を聞かずに強引に手続きを済ませたのだ。 ……だが、住居の問題は解決したが、やはりそれ以外の部分に欠陥がありすぎた。 見たところガス台は設置してあるようだが、本当にそれ以外は何もない。衣食住のうち、衣と食すら満たされていない。 ざっと必要な生活用品を数えても、調理器具やら食器やら冷蔵庫、寝具一式と作業用の机など……可能であれば、良好な通信環境。 とにかく足りないものが多過ぎた。これからの苦労を思うと、寝転んだままの弟からあまりにも大きな溜め息が漏れ出たのであった。
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