LV26 忘れた頃にこんにちは

2/10
前へ
/1013ページ
次へ
ボロボロの新居に移転して三日が過ぎた。 安いものとはいえ、寝具も調理具も、必要なものはあらかた揃え終え、少しずつ皆が新たな生活に馴染もうとしていた頃である。 「んあぁ……クッソ、体中筋肉痛が……動くのが億劫になる……」 安物の布団の中で目を覚ました弟は、自身の嫌悪する姉のような言動を取っていた。 というのも、昨日、その姉や女神の必要な買い出しに(無理矢理)駆り出され、あれやこれやと散々荷物持ち等に酷使された疲労が、日を跨いで襲いかかっている所為だった。 「ぐぅ……こんなことしてる場合じゃねーってのに……いやでも、今日くらいゆっくり休んだってバチは当たらんよな」 生活用品を買い揃えたとはいえ、やることはまだまだ山積みであった。 普段通りの執務環境の整備と、思いの外激しかった出費の埋め合わせ……すなわち資金の確保。 特に金銭面に関しては、多めに仕送りしてもらってはいるものの、今回の大出費はかなりの痛手である。早急に解決しなければ、来月にでも宿を失うことになりかねない。 それでも動く気になれないのは、誰も見ていないから、誰も彼を叱責する者がいないから、という甘えだった。 「姉ちゃんは毎日こうして好きなだけ布団で寝てられんだからいいよな……クソ。あ、でも最近はちゃんと起こして毎朝メシ食ってるっけ……姉ちゃん、こっち来てからも毎朝メシ食ってんのかな」 姉のような行動をしていると、不思議とその姉のことを考えてしまうものだ。 普段からさんざん喧嘩している姉弟仲だが、どうにも心配事は止まらない。姉だけでなく、メイドや女神についても同様だった。 「姉ちゃんの監視に同部屋にしたけど、メイドは上手くやってるだろうか……また姉ちゃんに泣かされてたりしないか? 姉ちゃんの世話はいつも通りできてるか? 女神もなんだかんだあの部屋で寝ることになったが……寝不足になってたりしないだろうな。てかあいつ料理できるのか?」 一度考え出すとなかなか止まらない。 そもそも、弟の同居人たちはほとんどが厄介者。ここまで心配する義理なんてない、そう頭ではわかっていても、気になって仕方がない。 結局弟は、極度の世話焼きだった。嫌っているはずの者たちでさえ、見捨てることができないくらいの。
/1013ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1090人が本棚に入れています
本棚に追加