LV26 忘れた頃にこんにちは

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些かショッキングな光景ではあったが、そんなことを気にするより前に、弟は勇者へ駆け寄っていた。 うつ伏せの勇者を転がして仰向けにし、左胸へ手を当てる……鼓動を確認、お腹も動いているので呼吸もしているようだ。 一先ず安心し、ほっと息が漏れ出たものの、依然として勇者の容体が不安なことに変わりはない。明らかに顔色も悪く……よく見れば、小さく唇も動いていた。 「……ぁ」 「どうした!? なにがあった、言ってみろ!」 「穢れてる……この部屋……穢れてるよぉ……」 たわ言のように繰り返す勇者は、救いを求めるように空中に手を伸ばす。 ひどく苦しんでいるようだが、無理もない。極度の潔癖症である勇者にとって、この環境は過酷すぎた。 全身が部屋そのものを拒絶している。掃除をしようにも道具がなく、為す術もないままに力尽きてしまったのだろう。 「くっ……まさかこいつの発作がここまで深刻なものだとは……! 潔癖症という人種を甘くみすぎていたッ! どうすれば快復する……?」 しかし、思い返せばその予兆はいくらでもあった。 外出時には必ずマスクとサングラスを着用し、魔王に触れるだけでも理性が吹っ飛ぶ筋金入り。この事態を予測できなかったのは、完全に弟側の落ち度である。 だが今は、勇者の症状を改善させることが第一。少なくとも、風邪や外傷によるものではないので、医者に頼らずともなんとかなりそうではある……が、具体的にどうすればよいのか。 「……そうか、掃除だ! 汚ぇ部屋で発作が起きたんなら、綺麗にすりゃあいい!」 至った答えは、実にシンプル。 綺麗な場所であれば、潔癖症でも平気だろうという考え方である。当然だ。それが普通だ。 尤も、築年数など根本の問題は、短期では解決のしようがないために、どこまで発作を抑えられるのかはわからない……が、なにもしないよりはいいだろう。 そうと決まれば、行動も早い。 勇者の部屋を飛び出し、自室から掃除道具一式を持ち運ぶ。主夫的臨戦態勢である。 「メイドォーッ! 掃除道具持って102! 四十秒で駆けつけろ!」 再び102号室へ戻る前に、ついでに援軍も要請しておく。下の階から上へ叫んだだけだが、充分メイドの耳には届いたことだろう。 そして、メイドが来るまでの間、少しでも綺麗にしておこうと、弟は早速クリーニングを開始する。
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