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部屋の掃除となると、弟の手は一切止まることはない。スピードと丁寧さを両立するその手際は慣れたものだ。
とはいえ、いくら狭かろうと隅々まで汚れを排除しようとすれば手間がかかる。そこで、頼もしい援軍の出番、というわけだ。
「クロードさま、おまたせ、しました」
「よく来た! メイド、お前は台所とトイレを頼む。いつもの倍、念入りにな」
「はい、わかり、ました」
会話は必要最低限。効率化された意思疎通も、主従の信頼関係あってこそ。
家事スキルの高い二人が役割分担をすることで、単純にスピードは二倍。浮いた時間を、より入念に汚れ落としに費やすことも可能だ。
みるみるうちに部屋が綺麗にされていく様は、側から見ていてもさぞ気持ちが良いことだろう。
「うぅ……はっ!? 僕は今まで一体何を……? って何故貴様がここにいる!?」
「お、ある程度清潔になったからか復活してきたな。お前も手伝え、いっそのことこの部屋から塵一つ残さず消し去ってやろうぜ」
「はぁ? まるで状況が理解できないんだが……」
当初の弟の読み通り、勇者の蘇生は容易に成功した。死んでないが。
勇者の活動できる許容の清潔さは取り戻したというわけだ。まるで魚か何かのようだと弟は思う。
そんな復活したばかりの勇者に早速雑巾を差し出し、人手に駆り出そうとする弟も弟だが、口では文句を言いつつそれを受け取り自然な流れで掃除を開始する勇者も勇者である。
「よし、こっちは終わったぞ」
「俺もだ……メイド、そっちはどうだ?」
「はい、おわり、ました」
弟、メイドに、勇者まで加われば、あっという間に部屋もピカピカ。尤も、見た目こそボロボロのままではあるのだが。
それでも、今ある道具で落とすことのできる汚れは全て落とした。ここまですると、室内の空気も幾分か心地よく感じるものである。
「……って、あれ!? メ、メイドちゃんも居たのか!?」
「わざわざお前のために来てくれたんだ、ありがたく思えよ」
「ぼ、ぼぼ、僕のためにィ!? メイドちゃんがァ!?」
仕事完了の報告のために戻って来たメイドを見て、ようやく勇者はその存在に気が付いた。そして一目でテンパった。
弟の言葉足らずな説明が更にそれを加速させる。正確には部屋の掃除のためであり、メイド本人に特別大きな感情の動きはない。
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