LV26 忘れた頃にこんにちは

7/10
前へ
/1013ページ
次へ
「うぇーい邪魔するぜぇ!」 ほどなくして、玄関の扉が開く音とともに品のない声が聞こえてきた。 それは間違えようもない、穢れの塊こと魔王のものである。どうやら、食材などを取りに帰ったメイドと一緒にやってきたらしい。 「ゲェーッ、ケガタマ!? 何故貴様までッ!?」 勇者からすれば、最大の天敵の登場だ。 幸せなひと時に水を差されたどころか、滝壺に突き落とされたような気分である。 「あー? ドブ雌がここでメシ作るっつーからよー、わざわざ降りてきてやったんだろーがよ。てか居たのかよ童貞野郎。あ、もしかして私邪魔だった? ねっとりベチョベチョの愛を育んでた?」 「シンプルに殺害したい……!」 「ここが自分の部屋じゃなきゃ実行していたよ……!」 そして質問に答えるだけに飽き足らず、同時に二人を不愉快にさせる台詞を吐ける魔王は流石としか言いようがない。いつでも全くブレない。 確実に心の内に湧き上がる殺意を、両者隠そうともしなかった。隠そうとはしていないが、弟は奥歯を噛み締め、勇者は自分の腕を抓りながら、必死に堪えている。 「おー怖ぇ怖ぇ。そんな睨むなっての。照れ隠しにしちゃあやり過ぎだぜ」 勇者のちょうど真向かいに、魔王はお尻から勢いよく畳に座り込む。 その時ですら弟は「この腐れニートが……!」と呟きながら憎悪の眼光を姉へ向けていたが。 「にしても、やっぱどの部屋もクッソボロっちいんだな。期待はしてなかったが……あぁでもあのゴミの部屋よりはマシか。なんも封じられてねーし」 「貴様の部屋よりは綺麗にしている。今掃除したばかりだし……というか封じ……え? なに?」 しかしその眼光を気にもせず、魔王は寛ぎながら部屋を見渡している。 空白期間の所為で、勇者は言葉の後半部分は理解不可能。どうしても気になってしまい、思わず訊き返した。 「……てかその女神はどうしたよ。連れてこなかったのか?」 「ゴミなら今部屋にいねーよ。暇だったしからかってやろうと思ってたんだが、何も反応なかったからな……つまんねぇ」 ちょうど女神の話題が上がったので、弟は今朝、女神のことも多少気に掛けていたことを思い出した。 それ故の質問だったのだが、意外なことに少しは魔王も気に掛けてはいたらしい。女神は魔王にからかわれたら無反応でいられるはずもないと確信しているため、留守も事実のようである。
/1013ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1090人が本棚に入れています
本棚に追加