LV26 忘れた頃にこんにちは

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あのダメダメ女神が部屋を空けているのは気になるが、気にしすぎても仕方がない。そういう日もあるだろう、と心の隅に留めるだけにしておいた。 会話が弾んでいるとは言い難いが、幸いにも魔王のお陰か沈黙が長時間流れるということもなく……いつしか部屋に充満する食欲を掻き立てる香りが、彼らの鼻腔をくすぐっていた。 「おまたせ、しました」 その発生源は、メイドお手製のできたてチャーハンである。綺麗に盛り付けられたシンプルながら本格派の味、弟直伝のレシピを完全再現。 メイドは器用に三人前を同時に運び、魔王らの元へ配膳する。尤も、卓がないので直接手渡しする形にはなるのだが。 「うん……美味ぇじゃねーか。褒めてやるよ」 「俺の教えたことをきちんとできているようだな。メイドもとうとう一人でこれだけの調理をこなせるようになったか……」 早速レンゲで大きな一口。姉弟からの評価も上々、特に弟はメイドの教育係として感慨深さも込み上げてくるほど。 これが城であれば、当然調理に弟も参加していたわけだが、如何せんボロアパートなので台所が狭い。一人で料理するのがやっとであり、それ以上の人数だと逆に動き辛くなり、作業効率が落ちる。 よって意図せずとも、メイドの独り立ちの瞬間を弟は立ち会うことになったのである。 「流石はメイドちゃんだ! 食べ進める手が止まらない……これならいくらでも胃に収められそうだよ!」 もちろん、手料理に一番喜んでいるのはこの人、勇者だ。空腹も手伝ってか、それはそれは見事な食べっぷりであり、その多幸感からかこの日一番の笑顔をメイドへ向ける。 ここまで喜んでくれるのならメイドとしても本望。魔王や弟に褒められたことも合わさって、胸がぽかぽかと暖かいなにかで満たされていくような感覚を覚えたのだ。 メイドは部屋の傍らで静かにご主人らの食事風景を見守る。こうして佇んでいるだけではあるが、その様子は子犬が尻尾を振って喜んでいるようにも見えた。 「ごちそうさま……ん? おい勇者、誰か来てねぇか?」 ちょうど彼らの皿の上が綺麗になった頃合に、玄関のノックの音とともに、誰かの声が聞こえてくる。 「本当に僕に用事のある者なのか……? 放っておくわけにもいかないが……」 来客としか考えられないが……引っ越してきたばかり故か、勇者は必要以上に警戒しながら席を立った。
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