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「……暇だ」
今日も今日とて、相変わらず部屋でゴロゴロしていた魔王は、読み終えた漫画雑誌を閉じながら言った。
「積みゲーも……積み漫画も……全部消化しきったときの達成感たるや何物にも代え難いものがあるけれど、この……後から襲い来る寂しさはなんなのか」
元々、ゲームや漫画以外に目的も何もない女が魔王である。
その生き甲斐……生きる目的とも言えるものを全て失ってしまったようなものなのだ。
そもそも、積みゲー積み漫画……とは、買ったはいいものの実際にプレイしたり読んだりする時間が足りなくて、少しずつ積まれて放置されていくもの。
本来ならば、それを全て消化……つまり、実際に使用することなど到底出来るはずもない。
「……つーか、魔界から持ってきたゲームだけじゃそりゃ弾切れも起こすか。ミッドガルドのゲーム、引いてはサブカル文化は他の世界より一歩リードしてるって聞いたことあるから、手ェ出してみんのも一興……問題はどうやって手に入れるかだ」
だがこの魔王、持て余しに余しまくっている時間を費やすことによって、それを可能にしてしまった。
いつかは訪れる時だった……とは言え、このままでは死活問題である。ものすごく低次元だが。
よって、次の手を思案するのだが……この引きこもりに、都合の良い考えが浮かぶはずもなかった。
「おい、姉ちゃん。入っていいか?」
すると、ドアがノックされ、同時に弟の声が聞こえる。
思考が遮られたことに一瞬苛立ったが、とりあえず暇だし入室を許可する。
「わかった、入れ」
「おう……なんだ今日は珍しく素直じゃねーか」
そのことに驚きつつも、結局は自分のマスターキーで部屋の鍵を開ける弟。入れと言う割に出迎える気ゼロなのにはムカつくが、今更一々言っていたらキリがない。
「ってなんだこれ!? 部屋汚ぁッ!? そしてくっさ! 埃臭ッ! 少しは換気しろやクズニート!」
「バッ、バカやめろ! 窓を開けるな! ぐあああ太陽が眩しい! 風が肌寒ィィィィッ!」
部屋に入って早々、強い不快感を覚えた弟は、静止する姉を振り切って窓に一直線。
窓の開放を阻止できなかった魔王は、外から取り入れられた新しい空気に勝手にやられていた。長いこと屋外に出ないため太陽光を浴びず、エアコンで適度な室温に暮らす事に慣れてしまった者の末路である。
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