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ベッドと机と椅子と箪笥、そしてクローゼットしかない殺風景な部屋で、勇者はうなされていた。
しっかり毛布と羽毛布団が体に掛けられているのに、濡れタオルを額に置かれた勇者の顔は青白く、そしてその体はガタガタと震えが止まらない。
「うぅぅぅぅ……穢れが、穢れがァァァァ……!」
その時、部屋のドアが二回ほど叩かれ、しばらくしてからそれは開かれた。
「しつれい、します」
そこに立っていたのは、トレイを持ったメイドの少女だった。
ぺこりと頭を下げてから、部屋へ入室。ゆっくり扉を閉めてから、ベッドの方へ歩いていく。
「タオル、おとりかえ、します」
一旦トレイを机に置いておき、メイドは勇者の額のタオルをすっと外した。
そのタオルを、ベッドの下に置かれている洗面器の水でよーく絞る。
「う、ウワァァァァァ!?」
再びタオルを勇者の額に置いた、その瞬間に勇者は叫び声を上げながら飛び起きた。
メイドはそれにびっくりしながらも、取り乱すことはなかった。
「おはよう、ございます。ゆうしゃさま」
「なっ、ななな……!? なんだ君は!? というかここは何処っ……!? うっ、頭がッ……!」
知らない場所、そして知らない人物。
寝起きで状況が把握できない勇者は、混乱して酷い動揺を見せる。
そして、突如として激しい頭痛に襲われた勇者は、額を押さえて頭を垂れた。
「ぐぅぅぅ……! 頭が痛いィィ……ぼ、僕はなんでこんなところにいるんだ? まるで思い出せない……!」
「ゆうしゃさま、だいじょうぶ、ですか」
あまりのショックに、気を失う直前数時間分の記憶を失った勇者は、依然として激しさを増す頭痛に苦しみ、唸り声を上げる。
そんな様子の勇者を心配してか、メイドは彼の額にすぅー、と手を伸ばした。
「やっ、やめろッ! 僕に触るなァッ!」
その手は強い拒絶の言葉に阻まれる。
メイドはビクッと体を震わせて、伸ばした腕を慌てて引っ込めた。
その表情はどことなく悲しそうなもので……それを見た勇者は、ハッと気付き、バツが悪そうな顔になる。
「す、すまない……」
咄嗟に謝りはしたものの、部屋に充満する気まずい空気が好転することはなかった。
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