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震えが止まり、空腹も満たされた勇者は、部屋を出て廊下を歩いていた。
その手には、先ほどのトレイ。食べた食器をそのままにしておくことなど彼の性格が許さず、城の見取り図など全くわからないにも関わらず、それを返しに行こうとしているのだ。
普通に考えて、キッチンは一階にあるだろう、と勇者が階段を下っていると……どうも下の階が騒がしい。
あの魔王と弟が、また言い争いをしているようだ。
「はァ!? なんで今日に限って菓子の一つもねぇんだよストックくらい確認しとけや童貞野郎が!」
「てめぇが毎日毎日菓子ばっか食い過ぎっからすぐ無くなんだろうが! 文句言うんならてめぇで買ってこいやクズニート!」
耳に入った一部の情報だけでも、相当低次元な争いだということがわかる。
勇者がそーっとスルーしようとした、その時。
「うるせぇ! 私ゃ魔王だぞ!? 口答えしねぇでさっさとポテチでも買ってこい!」
ムキになった魔王が、強めの力で弟を突き飛ばした。
するとどうだ、弟は勇者の目の前まで後退すると、そこで足をもつれさせ仰向きに倒れ……急な障害物の出現に対応できなかった勇者は、倒れた弟の脚に引っかかり転倒。持っていたトレイを庇った所為で、その倒れ方も変になり……結果、勇者が弟に覆い被さるような形に。
「う……うおおおおお! 床ドンか、これがあの床ドンってヤツか!? なんだよやっぱホモじゃねーか!!」
ついさっきまで言い争いをしていたとは思えないほど舞い上がり、興奮して息を荒げる魔王。
ポケットからケータイを取り出し、二人の絡みを写メに収めることも忘れない。
……だが、当然弟と勇者が大人しくしているはずもない。
ブツン、と二人の中で何かが弾けた。
「死ねクズニートがァ!」
「消えろ穢れの塊がァ!」
「へヴんッ!?」
次の瞬間、魔王の腹には弟の蹴りが。
顔面には、勇者が反射的に投げ付けた食器が直撃。
一瞬ではあるが、確かに宙に浮いた魔王は、額からは血を流し、口からは泡を吹いて、仰向けにブッ倒れたのであった。
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