LV6 瞼を閉じて物事を見よう

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見渡す限りの草原、そして一年中雪の被る山々が遠くに見える絶景に囲まれた、この世の天国、陸の孤島。まさにそんな場所に存在する大きな白い豪邸は、住人たちすらも時折忘れてしまいそうになるが、一応は魔王城の名称を付けられた、所謂ラストダンジョンである。 そうは言っても、最低限の人数が居住することしか考えられていない設計のため、侵入者を撃退するための「迷宮」あるいは「城塞」としての役割はない。 もはやただの住まいではあるのだが、前述したように僻地中の僻地に存在しているために、わざわざ城をだだっ広くして居住性を低下させる意味はないのだ。おまけに、大魔王特製装置によって、あらゆる索敵と攻撃を無効化する結界が張られているため、世界で一番安全な場所と言って過言ではない。 ……だが一応は侵略責任者の本拠地である。 玉座の間、もとい執務室は当然この屋敷にも設置されている……もっぱら利用しているのは、その弟だったが。 「……どうすっか。思ったよりやることがねぇ」 フカフカで座り心地抜群の玉座に思いっきりもたれかかり、前の机に足を乗り出した、青い髪で右目が隠れた、赤い瞳の青年……魔王の弟は、退屈そうに呟いた。 「今までは、俺の占星術で勇者を見つけたら、人間に成り済まして各地に潜伏する部下どもに連絡して殺させていたが……もうその必要はないし」 そう、勇者は既に、この魔王城に拘束されている。 現職勇者が死ぬまで次の勇者が選ばれないために、その命令を出す必要がないのだ。 一応様子見という形を取っていたが、勇者を捕らえて早一週間。今までは新しい勇者が選ばれるときには即日だったのが、一向に次の勇者が現れないため、弟の立てた仮説は証明されたことになる。 「かと言っていきなり町とか襲わせんのも……とりあえず、今週分の報告書でも読みながら考えるか」 先ずは現状を知ることから。 考えるのはあとでいいと判断した弟は、各地の部下から届いた山のような報告書を手に取り、それに目を落とした。
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