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抱えられたまま強制的に連れて来られた場所は、脱衣所であった。
そのまま魔王の衣服を全て脱がし、自分も一糸纏わぬ姿になると、浴場へ連れ込む。
「は、早ェェ!? このドブ雌っ、私の抵抗をものともせず服を剥ぎ取りやがったッ!」
「……?」
魔王はその手際の良さに驚くが、メイドはなんのことやらと首を傾ける。
メイドにとっては、抵抗でもなんでもなかったらしい。
そんな魔王の話を聞かず、メイドは勢い良くシャワーでお湯を出し、それを魔王にぶっかけた。
「ぶわっ、目に、目にお湯がァァァッ!?」
「おからだ、あらいます」
そしてスポンジをボディソープで泡立て、ゴシゴシと手際良く隅々まで洗っていく。
それが終わると、次は髪の毛を洗っていく。
「いだだだだッ!? こンの馬鹿力がっ、やるんならもっと優しくしろ!」
メイド基準の力加減なので、多少荒っぽくはあるが。
だがそのお陰もあってか、魔王の体は短時間で相当サッパリとしたようだった。魔王が自分一人で入った時に比べると、その三分の一ほどの時間で。
「ねえさま、さきに、おふろ、はいってて、ください」
「……ちっ、言われずともそうするっつーの」
もうここまでくれば魔王もヤケである。
魔王は右足から湯船に入り……ゆっくり肩まで浸かっていく。
メイドはそれを確認すると、今度は自分の体を洗い始めた。
そんな時、魔王にある考えが芽生える。
「……今のうちに上がっちまうか」
ドブ雌と一緒の湯に浸かるのは、プライドが許さない。
ならば先に上がってしまえばいい。風呂に入ったのは事実だし、弟にとやかく言われる筋合いもないはずだ。
そして魔王は待った……メイドが頭を洗い始めるそのときを。
「よし、今だっ……!」
メイドの髪の毛が白い泡で包まれた頃を見計らい、魔王はゆっくりと湯から上がった。
そして急いで浴場の扉へ向かう。
「よし、勝っ……!」
が、その直前で、どうやらこちらまで滑ってきてしまったと思われる石鹸を、魔王は思い切り踏み付けた。
急いでいたためにかなり前のめりの体勢だった魔王は、石鹸に足を取られ……勢い良く頭から風呂の大理石に突っ込んだ。
凄まじい衝突音が魔王の頭蓋から響くが、シャワーの音でメイドはそれに気付かず……額から血を流して倒れる魔王が介抱されたのは、約一分後のことであった。
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