LV6 瞼を閉じて物事を見よう

10/10
1088人が本棚に入れています
本棚に追加
/1013ページ
抱えられたまま強制的に連れて来られた場所は、脱衣所であった。 そのまま魔王の衣服を全て脱がし、自分も一糸纏わぬ姿になると、浴場へ連れ込む。 「は、早ェェ!? このドブ雌っ、私の抵抗をものともせず服を剥ぎ取りやがったッ!」 「……?」 魔王はその手際の良さに驚くが、メイドはなんのことやらと首を傾ける。 メイドにとっては、抵抗でもなんでもなかったらしい。 そんな魔王の話を聞かず、メイドは勢い良くシャワーでお湯を出し、それを魔王にぶっかけた。 「ぶわっ、目に、目にお湯がァァァッ!?」 「おからだ、あらいます」 そしてスポンジをボディソープで泡立て、ゴシゴシと手際良く隅々まで洗っていく。 それが終わると、次は髪の毛を洗っていく。 「いだだだだッ!? こンの馬鹿力がっ、やるんならもっと優しくしろ!」 メイド基準の力加減なので、多少荒っぽくはあるが。 だがそのお陰もあってか、魔王の体は短時間で相当サッパリとしたようだった。魔王が自分一人で入った時に比べると、その三分の一ほどの時間で。 「ねえさま、さきに、おふろ、はいってて、ください」 「……ちっ、言われずともそうするっつーの」 もうここまでくれば魔王もヤケである。 魔王は右足から湯船に入り……ゆっくり肩まで浸かっていく。 メイドはそれを確認すると、今度は自分の体を洗い始めた。 そんな時、魔王にある考えが芽生える。 「……今のうちに上がっちまうか」 ドブ雌と一緒の湯に浸かるのは、プライドが許さない。 ならば先に上がってしまえばいい。風呂に入ったのは事実だし、弟にとやかく言われる筋合いもないはずだ。 そして魔王は待った……メイドが頭を洗い始めるそのときを。 「よし、今だっ……!」 メイドの髪の毛が白い泡で包まれた頃を見計らい、魔王はゆっくりと湯から上がった。 そして急いで浴場の扉へ向かう。 「よし、勝っ……!」 が、その直前で、どうやらこちらまで滑ってきてしまったと思われる石鹸を、魔王は思い切り踏み付けた。 急いでいたためにかなり前のめりの体勢だった魔王は、石鹸に足を取られ……勢い良く頭から風呂の大理石に突っ込んだ。 凄まじい衝突音が魔王の頭蓋から響くが、シャワーの音でメイドはそれに気付かず……額から血を流して倒れる魔王が介抱されたのは、約一分後のことであった。
/1013ページ

最初のコメントを投稿しよう!