LV1 嗚呼、素晴らしき堕楽園

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男の燕尾服の胸元をガッと掴み、凄まじい形相で睨み付ける女魔王は、更に激しい剣幕で罵声を浴びせる。 「大体部屋入る時はノックしろって言ってるだろうが! 乙女の部屋に入るってのに遠慮もなにもねーのかてめーには!」 「ノックもしたし声もかけたわ! だがどうだ、返ってきたのは気持ち悪ィ笑い声と男の喘ぎ声だ! ふざけんな!」 「ふざけてんのはお前の髪型だろうが! なんだそれカッケーとでも思ってんのか!? キタローじゃねーか!」 胸倉を掴み合っての罵り合いは、ヒートアップしていくばかりだ。 この魔王と対等に罵り合いを繰り広げる彼は、何を隠そう魔王の実弟である。 青い髪に赤い瞳という、姉とは対照の色合いで、右目はその長い前髪に隠れている。 服装もきっちりした燕尾服をおしゃれに着こなしており、だらしない姉とは何もかもが正反対であった。 「ちっ……んで、私に何の用だ弟。私のBLゲータイムを中断させてまで乙女の部屋に侵入してきやがったんだ、くだらねーことならマジぶっ飛ばす」 「ほざきやがれ。お前が乙女を名乗るな、吐き気がする」 「ああん!?」 一旦掴み合いは終了したものの、お互い睨み合うことだけは続行、両者の間で弾ける火花が途切れることはない。 しばらく無言で対峙していた二人だったが、これでは埒があかないと、諦めた弟が口を開く。 「部下から報告があったが、51人目の勇者を葬ったそうだ」 「あっそ……くっだらねー。で、52人目は?」 魔王は心底興味なさそうに吐き捨てた。 弟はそれに苛立ちながらも、どこからか水晶を取り出し、それを右手で姉の前に差し出した。 「既に女神は52人目の選定を終えている。占星術の結果によると……こいつだな。43歳男性バツイチ、先月会社が倒産し、女に騙されて借金を抱え込んで……」 水晶には、眼鏡をかけたバーコード頭の壮年男性が映り込んでいた。 弟の占星術の精度は抜群であり、彼の言う事に何一つ偽りはない……尤も、魔王の耳には届いていないが。 「殺せ。以上」 水晶の中のおっさんを、まるでゴミを見るような目で睨み付け……ただそれだけ、短く言い放ったのみだ。
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