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弟にとって魔王の外出宣言は嬉しいやら疑わしいやら、とにかく色々な方面からの衝撃が強すぎて錯乱状態に陥ってしまい、冷静さを欠いていた。
おそらく現時刻、最もこの城において騒がしい彼の元に、その声を聞きつけてやってくる人物も、もちろん一人くらいはいるわけで。
「うるさいわよ、愚民! その鬱陶しい前髪引っこ抜かれたいのかしら!?」
つい先日から(勝手に)住み着くことになった、女神がぷりぷりと怒りを露わに現れた。
声をかけられたことにより、弟もハッと我を取り戻す。
「わ、悪い……取り乱した」
「乱しすぎよ! ったく、おちおち神経衰弱もやってられないじゃない」
モコモコしたパーカーのような部屋着に身を包み、ノーメイクの女神は、完全に自分の居住として城に馴染んでいる証拠だった。
女神の使っているゲストルームからは近いとは言えないこの場所までわざわざ足を運んできたことから、自分の騒音が結構うるさかったということを自覚する。
思い返すと自分でも恥ずかしいので、女神の発言を拾って話題を逸らすことにした。
「へぇ、トランプ一緒にできるくらいには仲の良いやついんのか」
「……? なに言ってんの? 一人でやってたに決まってるじゃない」
「一人!? 神経衰弱をか!?」
女神には、弟の質問の意味がわかっていないようだった。
まるでトランプは一人でやるものだと言わんばかりである。
「神経衰弱だけじゃないわ。七並べとかポーカーとか超楽しいわよ」
「ええ……」
心底楽しそうな女神の笑顔に、弟は困惑するばかりである。
こんな表情をする相手に、その遊びは対戦相手とプレイするものだ、と現実を突きつけるのは気が引けたからだ。
「で、あんたは雑巾持ってなに騒いでたってのよ。新しい遊び?」
「雑巾なんかで遊びたくねぇ」
おかげさまですっかり冷静さが戻ってきた弟。
ツッコミでワンクッション置いた後、その原因を一言で簡潔に告げる。
「姉ちゃんが外出るって言い出してな……こんなことは今までになかったから、つい正気を失って」
「へぇ、あのクズが? でもそんなことで騒ぐなんて所詮は愚民ね! 女神ともなればいちいちそんなことで取り乱さないんだから!」
何故かその豊満な胸を張って誇らしげな女神。
お前は普段からうるさいし結構よく取り乱してるだろ、とは思っても口に出さなかった。弟は面倒ごとを避けたのだ。
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