LV88 いやしいやしのハッピールーム

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【え……えぇぇぇぇっ!? なにやってんの!? なにやってんのよあの二人ーーーーっ!?】 女神は頬を真っ赤にして、思わず手で顔を覆った。 なにやら普通の雰囲気ではないことはわかる。それに、弟とメイドの間に、今まで一切〝そういう雰囲気〟もなかった。だからこそ衝撃も大きい。 【た、確かに〝そういう現場〟に遭遇したことは、一回だけはあるけどっ! よりによってなんで二回めがあんたらよ!? 愚民のやつ、さんざん小娘のこと子供扱いして、こういうのはまだ早いって言ってたのに……!】 女神の過去の一回とは、まだ女神が女神になる前、則ち生前の話。彼氏の浮気現場を目撃した彼女は、あまりのショックに発狂して現場をめちゃくちゃにした後、自宅マンションへ帰って即首を吊ったのだ。 だが、今回はその時のショックとはまた違う。決して弟と女神は恋人関係ではないからである。 どちらかと言えば、メイドをそんな目で見ていたのか……という失望、あるいはそれに準ずる何か。 【愚民が小娘に優しいのは、子供だし素直で仕事もできるからだと思ってたけど……まさか、そういうことだったのね!? 〝そういうこと〟から小娘を遠ざけてたのは、自らの手で教え込むためだったのね!? とんだロリコン変態野郎だわ!!】 そこまでいくと、弟への嫌悪は増幅するだけだ。 無垢を穢さんとするその邪悪に吐き気さえ覚える。怒りのあまり涙も出てきた。 このまま見て見ぬフリをするのは簡単だ。きっと弟は、明日からも変わらぬ態度で自分と接してくるだろう。それは被害者たるメイドも同じ。 だが、そんなことは間違っている! いたいけな少女が泣き寝入りする世の中であっていいはずがない! 居心地の良ささえ感じていたこの魔王城という空間を壊すことになりかねない、だがそれでもいい。ひとりの女の子を救えるのなら。 女神の正義心は燃え上がり、小さな勇気は大きな炎へと形を変えた。それらは女神の体を突き動かし、部屋の旅を乱暴にぶち開ける。 「こらーーーーっ!! なにやってんのあんたたち!! 見損なったわよ、愚民ーーーーーっ!!!」 怒り、哀しみ、憎悪、侮蔑。それらをストレートに乗せた怒鳴り声。 女神がここまで負の感情を爆発させたのは、女神となってからは初のことだった。
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