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しかし、そこで女神が見たものは。
「うおっ!? なんだよ急に! 驚かすな!」
「なにって……あら?」
ベッドの縁に腰掛ける弟と、その膝に頭を預け横になるメイドの姿。
そして弟の手には、先端にふわふわが付いた細い棒状のもの……これらの情報を統合して、導き出される結論は。
「ったく……メイドの耳掃除してるとこだったんだんだぞ、危ないだろ」
「みみ……そうじ?」
そう、まさしくそれは耳掃除の真っ最中。
自分も幼い頃に母にされた記憶があるので、状況を理解するのにそう時間はかからなかった。
「じゃあ、あんたが小娘になにかいやらしいことをしているわけじゃ……」
「そんなわけあるか! 俺をなんだと思ってんだお前!」
誤解だと気付き、女神は大きく安堵のため息を吐いた。人道を踏み外した鬼畜はこの城にはいなかったのだ。
あらぬ疑いをかけられた弟としては、心外である。
「……こうしてたまに、耳を綺麗にしてやってんだ。こいつ、ほっといたら耳掃除なんてしないだろ」
「あ~……確かにそうかも。イメージ湧かないわ」
ほとんど本能のままに、そして人から言われたことしか行動を起こさないメイドは、自分自身のために自発的に行動を起こすという慣習がない。
故に、メイド自身の世話はこうして弟が請け負うこともある。少し手間のかかる妹が出来たと思って、弟はメイドに接しているのだ。
「あっ……! んぅ……!」
「こいつ、耳が敏感みてーでさ。こうしてると、本当に借りてきた猫だよな」
全身の感覚器官、そして神経が極限まで研ぎ澄まされたメイドは、こうした刺激にめっぽう弱い。
この城に来るまでは、耳掃除などされたこともなかったのだ。そういった耐性がまるでないのである。
他、くすぐり等も須らく弱点だ。
「そうね……こーんなだらしない顔しちゃって。本当に安心しているのね。気持ち良さそうに……」
女神は自然に弟の隣に座り、メイドの頭を優しく撫でた。
筋肉の弛緩しきったメイドのとろんとした表情が、たまらなく愛おしい。きっと、弟も同じ気持ちなのだろう。
「……なあ」
「なっ、なにかしら?」
そうしてしばらく、メイドが耳掃除されるのを隣で眺めていると、不意に弟から声が掛けられた。
女神はハッと意識が引き戻され、少しどもりつつ弟へ顔を向け、返事を返す。
「次、お前にもやってやろうか?」
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