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思いがけない弟の一言に、女神は心身共に硬直してしまった。
その言葉が何度か頭の中で反芻されたことで、やっとその真の意味を理解し、顔を真っ赤に染め上げる。
「な、なな……っ、なに言ってんの!? それじゃまるで、私があんたに耳かきしてもらいたそうな顔をしてたみたいじゃない!」
「そう見えたから言ったんだが……別に嫌ならいい。俺の勘違いだったようだ、すまんな」
いい歳して、他人に耳の掃除を任せるなんて恥ずかしい。深層意識でそういう考えがあったからこそ、女神は必死に否定した。
その必死さの理由を、弟はよくわかっていないようで、頭の中に疑問符を浮かべる。メイドへの耳掃除で感覚が麻痺しているのだ。
だが、嫌がっているものを無理矢理させるような真似もせず、弟はあっさり引き下がった。再びメイドの耳掃除に集中する。
「よし、次は反対側な」
「……はい、クロードさま」
顔の向きを変えるために一度起き上がったメイドは、とろんとした顔で眠たげだった。
幼いながらも、城一番のしっかり者というイメージのあったメイドの表情に、女神は意外な印象を受けた。メイド服を脱げば、彼女はただの少女なのだ。
「んっ、ひぅっ……」
こちらの耳もやはり敏感で、耳かき棒が動くたびに声を漏らすメイド。
だがそれもしばらくすると止み、規則正しい寝息が聞こえてくる。
「小娘……寝ちゃったのかしら?」
「みたいだな。いつのまにかこんな時間だし」
気がつけば、普段メイドがベッドに入って眠る時間に迫ってきていた。耳掃除の気持ちよさと、弟の膝枕に身も心も預け、安心しきっていたせいもあるだろう。
そんな様子を、女神はじっと見つめていた。
「女神よ、本当にいいのか?」
そして、そこまで見られていれば、弟も当然気づいている。
これ見よがしに耳かきの棒を顔の前に持って行きながら、今一度女神に問う。
「ほ、ほんとは……ちょっと、してほしい」
「おうわかった。任せろ」
恥ずかしさから目をそらし、頬をピンクに染めながらも、女神は心の中に芽生えた欲求を素直に伝えた。
その要求に、弟は即答。なんの気負いすることもなく、むしろノリノリのようにも見える。
メイドを起こさないよう、そっと膝枕を外して、静かに位置を横にズレた弟は、いつでも準備オーケーだ。
「ん。頭乗せろ」
ぽんぽん、と軽く自らの膝を叩く弟の誘惑に、女神は抗う術を持たなかった。
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